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「#エロ」のBL小説を読む
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- ナノ -

私の隣に座る私の男はたいそう美しい顔をしている。
「宮地、見て見て。あの人、あ、そっちじゃなくて、右の方の人。黒縁の眼鏡かけてて、ニット帽被ってる人。あの人、かっこよくない?」
「・・・少なくとも、彼氏の横で言う言葉じゃねえなあ?轢くぞ」
「やだ物騒。今日は軽トラ要員の木村くんはいないわよ」
「うっせえ。てかまじうぜぇ」
つまらなそうな顔をして宮地がそっぽを向く。寒さのせいか、鼻の頭がわずかに赤かった。イケメンは楽しそうに笑いながら友達らしい男の人たちと、今度はブランコを漕いでいる。いい年した大人(おそらく大人だろう)(大学生くらいではないだろうか)が無邪気なものだ。
「目の前にあるものじゃ満足できねーの?」
「できないね、隣の芝は青いもの」
「ないものねだりだろ」
「お互い様でしょう」
ふうと息をつくと、ふいに手をさらわれた。無駄に大きい彼の手のひらの中に右手がご招待される。強制送還と言ってもいいかもしれない。そのまま彼のポケットにつっこまれた。
「そんなこと言ってると捨てちまうぞ」
「捨てたらもう二度とは拾えないからね」
逃がした魚はでっかいかもよ。ははっ、言ってろ。
私が笑って、だけど声に反して宮地の顔は笑わなかった。少しも笑わず、じいっと地面を見つめている。その横顔を横目で盗み見る。さっきのイケメンくんは、きっと今だって公園内にはいるのだろうけれどもはや眼中にもない。私の横に座る私の男は、たいそう美しい顔をしている。
「てかおまえってさあ、オレのこと、ちゃんと好きなの?」
「・・・ちゃんとっていうのがどういう定義なのかわかんない」
「・・・はあ?」
「だけど、さよならは嫌いだな」
「わけわかんねーよ」
私はいずれ失うのだろう。この手の温もりも、ぶっきらぼうな優しさも、やけに額にしわを寄せながら口の端を上げて構成される笑みも、全部失くしてしまうのだと思う。終わりは、呼ばなくったって向こうからやってくる。私はこうやって、目の前にある幸せを持て余している。自らの内側に巣食う怪物に、幸せという餌を与えながら肥え太らせ続けてきたのだ。それがむくりと頭を持ち上げて、飼い主であるこちらに襲いかかってくるとき、私たちの関係はあっさり食い物にされてしまうだろう。繋いだ手は、きっと解かれる。
だけれど私にはやっぱり、その終わりとやらが随分心地の良いものにしか思えないのだった。怪物が頭を持ち上げる。その表情を、私は知っている。
「宮地、好きだったよ」
ごちそうさま。

怪物のバラード(130112)
現状に満足できない怪物と解せない男の話。