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手を掲げて、太陽の道筋を遮る。カーテンの隙間から漏れ出る光は、開けたばかりの瞳に優しくなかった。
「おはよう、健ちゃん」
すぐさま声がかけられる。生憎ベッドの隣は冷たかったので、きっと声の正体はちょうど部屋に入ってきたところだったのだろう。起きたばかりの、カサついた呻きのような声で反応するとくすくすと笑い声が聞こえた。
「ようやく起きたのねネボスケさん」
もう一度、声がかけられる。眩しくて太陽から目を覆った腕を彼女の方へ伸ばすと、不思議そうにしながらもなまえはその手を覆うように握ってきた。
「う、わ、ちょっと!」
腕を引っ張ってみるとまるで予想してなかったのか、なまえの体はすぐにオレの方へ倒れてきた。一転して、楽しそうな声が一転して緊張を帯びる。もう、危ないでしょうと怒ったように言われてしまっても、こちらとしてはへっちゃらだ。
「天気がいいな」
「ったく聞いてないでしょう…そうだね。もうお昼だもの」
「え。オレそんな寝てた?」
「そりゃーもう、ぐっすりと。」
疲れてた?と、胸元の辺りから声が聞こえる。上半身だけベッドの上にあるという半端な体制のままだったなまえも、ようやく体を全てベッドの上に運んできた。二人で並んで寝そべるような態勢になる。この光景だけ見ると、朝方に戻ってしまったみたいだ。
「今日は晴れか」
「うん。もう、洗濯物干しちゃったよ」
「そっか」
「うん」
なまえの顔があるのはオレの胸元当たりなので、自然と声はそこから聞こえる。まるで心臓が喋っているような錯覚に陥ってしまう。
「あー…なんだ、…天気がいいなってさっき言ったけどよー」
「うん?ああ、うん、言ったね」
「まーオレは、別に雨でもいいんだ」
「…」
「雨でも、雪でも、まあ雷とか、台風でも、でもこうやって朝を迎えることができたら…ああもう昼だっけ?まあなんでもよくってさ。ただ、起きて一番にお前がおはようって言ってくれたらそれでいいんだよ」
「…うん」
「あー?オレ、何言ってんだ?イミワカンネー」
「急にどうしたのかと思えば、なあにそれ?プロポーズのつもりだった?」
「おっまえ人が真面目な話をしようと思ったらそうやって茶化してよお…まあそういう意味でとってもいいけどさ」
「…」
「え、何か言えよ」
「健ちゃんのそういう素面でタラシのところ、私あんまり好きじゃなーい」
「はあ?…イミワカンネー」
「うそうそ、嬉しかったよ、ちゃんと。…私も、健ちゃんのお嫁さんになりたいなあ」
「…そうか」
「うん」
そう言って、二人の間に沈黙が流れた。結婚してくださいとも、結婚しようとも確かな言葉は使わない。だけどへんに心地よかった。目を閉じて、もう一度目を開けてみる。隣には変わらず彼女がいた。これからもこんな日常が続くのだと、漠然とだがそう確信した。
「…起きようか」
「…そうだな」
「何が食べたい?」
「なまえの作るものならなんでも」
「ちょっとお…調子いいんだから、相変わらず」
先に体を起こしたなまえが、今度はオレの腕をぐっと引っ張る。彼女だけの力じゃオレを起き上がらせることは不可能なので、腹筋に力を入れて自らの体を起こす。なまえの手はほかほか温かかった。オレの方を見て、もう一度ニコリと笑う。カーテンから漏れ出る光が偶然、後光のように彼女の後ろから差していた。
なんだろう、マリア様、みたいだ。
「おはよう健ちゃん」
「…おはようなまえ」
その笑顔があんまり素朴なので、さっき自分が考えたような高尚な存在ではないことにそっと安堵する。マリア様じゃない、オレと同じくらい矮小な存在のなまえは、今日も矮小なオレの隣にいてくれる。幸せだなんてそんなクサいこと、すぐには言ってやらない。だけどなまえも同じように考えているだろうこと。どうしてだろうか、エスパーになった気分だ。手に取るようにわかるなんて。


幸福なサンデー
song by back number 『日曜日』