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黄瀬の、足の骨を爪で弾く。こんこんと無機質な音がした。「…何してんスか」「んー、べつに。足長いなあと思って」「何それ」私が与える衝撃で起きたのか、覚醒しきっていないような声が黄瀬の口から漏れ出た。狭いベッドの上、彼の足元に丸まった私のずっと頭上からへらりと困ったような笑みが降ってくる。カーテンの隙間から漏れだす太陽が、柔らかな光の線を作る。きれいな一直線。スポットライトのように差し込むそれの中で部屋に散布される埃が露になる。照らされてわかるけれど、この部屋もびっくりするくらい埃にまみれている。それは私たちの関係と、もしかしたら似ているのかもしれない。黄瀬がちらりと時計を見た。暗がりに目を慣らすのに時間がかかるのか目を細めたりしている。「どーする?もう昼間なんだけど。午後どっか行く?」「黄瀬今日仕事は」「あったらこんな時間までいないっつーの」「部活は」「以下同文」「そっか」「…彼女は」「…」「…」「なんでそれ聞くんスかねえ」黄瀬が背中を丸めて私に近づこうとするから二人は奇妙な形になる。産まれるずっと前、お腹の中にいるときの体勢と同じような歪な形。その大きな、骨ばった手が私の頭を撫でた。うんざりするくらい優しい手だ。ホワイトチョコレートのように甘ったるくて、胸がもたれるような優しさを、黄瀬はその体に内包している。内臓と内蔵の間を縫ったそのまた向こうに、ぶすぶすと燻らせているのだ。私はそれに答えるように、そのふくらはぎに爪を立てる。肉と、それから筋肉の感触がした。よくしまった、筋肉質な足だ。わたしのすきなひとのあし。そのきめ細かい皮膚にしばらく爪を突き刺してから先ほどのようにもう一度こんこんと弾いてみた。黄瀬がくすぐったそうに笑ったのが雰囲気で分かる。「もーちょっとこのままがいいかなあ」「…そうっスね」薄暗い部屋に光の線が差し込む。黄瀬の白い白いその骨は今日も硬質な悲鳴をあげる。なにも変わらない。なんにも変わらない。多分、「黄瀬、」世界は、「黄瀬が死んだら、この足の骨だけでいいから私に頂戴ね」あまりにも、「他はなんにもいらないから」平穏だ。埃も現実も瞬く間に霞んでしまうほど。

白骨未遂

いっしょういちばんにしてくれなくてもいいよ。でももしきみがしんだらこのあしのほねだけ、しろいしろいそれだけわたしにちょうだいね。
(121022)