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「馬鹿じゃないの」

開口一番そう言われた。秋丸は手のひらで顔を半分覆ってはあ、とため息をつく。想像通りの反応だけど、やっぱり面と向かってやられると傷付く。それでも、私は決めたのだ。うんと言ってもらえるまであがくことにする。

「なんでよー」
「ぶーたれないでよ、不細工だよ」
「うるっさいなあ!いいじゃない。私だってやりたいことあるんだもんっ」
「そのやりたいことってなんなんだよ」
「…っ、それはー」

あんたと同じ大学に行くこと、なんてそんなこと言えるわけもない。そんなこと言ったら確実に秋丸はまたため息を着くはずだ。手元には二つの合格証明書があった。一つは秋丸の行く大学のもの、もう一つはもともと私が志望していた大学のもの。その二つの大学に合格してから、どうしても行きたかった自分の志望校がかすんで見えるようになったのだ。日々秋丸の行く大学に行きたくなってくる。それは卒業前のセンチメンタルなのか、それともただの不安なのか。わからないけど考えて考えてどうしようもなく悩んで、秋丸に言うことを決めたのだ。秋丸は怪訝な目で私を見ている。目が泳ぎそうになるのをなんとか我慢して、私は秋丸をじっと見つめ続けた。

「…」
「…」
「…なんでわかってくれないのお」
「…はぁ」
「それやめてよ」
「は?」
「そのため息つくやつやめてよ。傷つく。」
「…ごめん」
「秋丸は私の親でも、先生じゃないでしょ。なんで私のやりたいようにやらせてくれないのよう」
「だからだよ」
「…どうゆうこと。」

やめてといったのに秋丸はまたはあ、とため息をついた。こいつ、私の話何も聞いてないな。眉根を寄せて目を伏せている。


「俺だって一緒の大学通いたいよ…」


「…は?」
「でもさぁ、俺とみょうじの関係なんて彼氏彼女、くらいしかないじゃん。俺の都合でみょうじの将来なんて縛れないだろお」
「…なんなの、そんなこと考えてたの」
「あたりまえだろ」
「秋丸は…いつか私と別れるつもりなんだ」
「は?」
「わかったよもういい、今までありがとうさようなら」
「ちょ!ちょっと待てよ!どうしてそうなるんだよ!」

いけない、泣きそうだ。こんな顔は秋丸に見せられないと思って、くるりと背中を向けた。背後から秋丸の慌てた声がする。まさか、秋丸がそんなこと考えていたなんて、気付かなかった。秋丸、好きだよ。大好きなんだよ。だから離れたくないんだよう。なんでわかってくれないの。そんなふうに、私はいつから秋丸に甘えてきたんだろう。秋丸はそんな私にいつからうんざりしていたんだろう。恥ずかしい、本当に恥ずかしい。好きだって本気で思ってるからこそ輪をかけて恥ずかしい。肩透かしを食らった気分だ。絶望的な気持ちになる。


「あーもう!違うって!俺の話を聞けよ!」


「…なに。」
「だーから!いつかはお嫁さんになるんだろ!そんとき、みょうじにはやりたいことやっててほしいの!」
「…は、」

秋丸が何を言っているのかわからない。私は目を見開いて、とっさに秋丸のことを振り返る。照れたように頭をかく秋丸がそこにいた。

「…」
「なに!恥ずかしいからなんか言えよー」
「…嬉しい。デス」
「何照れてんの!」
「あ、秋丸だって!」
「それに、結婚したらずっと一緒だろ。たった四年間くらい離れてたって平気だよ俺」
「うわーすごい自信」
「な、なんだよ」
「これで三か月後とか別れてたらウケるわ―」
「ウケねーよ馬鹿」


うん、だからちゃあんと捕まえててね。二人が一緒に暮らせる日まで、ずっと一緒にいられる日まで、私を離さないでね。





(…お嫁さんとかかわいいね秋丸)(う、うるさい!)


(120209)