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「#エロ」のBL小説を読む
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- ナノ -

「日向ぁ、何ぼおっとしてんの?」
「…ああ、コガか」

はっとする。温泉の中でどうやらぼおっとしていたようだ。コガが不思議そうに、眉を下げてこちらを見つめている。…いや。あの、近いです。コガの後ろには伊月や黒子や木吉も心配そうな顔をして佇んでいる。「わ、わりぃわりぃ!」ついつい大きな声が出てしまう。動揺を包み込むはずのオブラートが勢い余って破れてしまった。「日向、さっきからオレらの話聞いてないっしょー?」「そ、んなことねえよ」そんなことないっス。はい、

「はっ、まさか悩みがあるのか…?」
「まさか…」
「あれだろ、10日間とかずっとプライベートないから…溜まってんだろ!」
「…」
「…」
「…コガ先輩最低ですね」
「オレが今とっておきのダジャレ言おうと思ってたのに…」
「なんだこの破廉恥な部は…!」
「火神くんもこれくらいで動揺しないでください」
「は、はあ!?どどどどど動揺なんてしてねえよ…!」
「あははー、火神それが動揺っていうんだぞー」
「ていうか黒子ってむしろ性欲あんのー?」
「…コガ先輩、それパワハラです」
「もうややこしくなるから止めてくんねーかな…!」

話が逸れてしまったことにほっと一安心しながらも、怒号をあげる。立ち上がるときにばしゃんと湯が揺れた。後ろでぎゃあぎゃあと騒ぐ部員を気にせずに洗い場へ行く。冷水をばしゃあと頭から被った。すう、と思考が冷めていく。思い出すのは数時間ほど前。みょうじのやけに赤い顔と、上に広がる空の色。脳裏に残った残像がコマ送りで流れている。声だけが何度も反響している。「好きになっても、いいかな!」何度も何度も、その言葉が繰り返される。「どうしろってんだよ…」「どうしたんだ?」すぐ後ろで声がした。

「うわあああああ」
「よっ!」
「よっ!じゃねえよダァホ!死ね!驚かすんじゃねーぞ!木吉!」
「物騒なこと言うなよ…人に死ねって言っちゃいけねえんだぞ」
「なんでそこだけ神妙な顔になんだよ!余計イラッとするわ!」
「悩み事かー?キャプテン?ははっ」
「…悩み事なんかねーし、あったとしてもお前には言わねーよ」
「そーかそか、そうだよなあ」

はっはっは、と木吉がやけに快活に笑う。なんだかこっちが悪いみたいで居心地が悪くなってしまう。悩み事。これは悩み事なのだろうか。まあ悩み事か。みょうじがオレにひ、惹かれてる…として。オレがみょうじのことを…嫌いじゃない、として…いや、あくまでも仮定の話だが!だとして、ここにはあと少ししかいられない。オレたちはこれからもずっと一緒に入れたりしない。それなら好きになってもいいぞということはひどく無責任なことな気がしてならない。これからずっと一緒にいられるなら、あるいは。だけど、そんな現実はない。オレはもうそれを理解できないほど子供でもない。どうしようもないじゃないか。未来がない。ああもうなんでこんなこと考えないといけないのか、オレはバスケをしに来ているというのに!みょうじがふりふりと手を振る姿が、その赤い頬が、ふいと脳裏を掠める。はあ、と無意識にまたため息をついていたようだ。木吉が怪訝な顔をした。

「なんだよ、煮え切らねえなあ」
「…お前につべこべ言われる筋合いはねえよ」
「なあ、日向。チャンスの天使は前髪しかねえんだって」
「はあ?」
「てなあ、オレの家の近所のじいちゃん?あれ?ばあちゃんだったかな?が言ってたぞ」
「テキトーすぎんだろ!なんだそれ!」
「まあ、だからそういうことだよ!な、日向!」
「意味わからんわ!…はあ、なんか気ぃ緩んだ…」

考えてもわかんないことは考えなくていいや。やりたいようにやればいいんだな、きっと。後悔しないためにも。木吉にありがとう、というか迷って、やっぱり言わないことにした。ふっと冷静になると居心地が悪くなったのでもう一度湯船に戻ろうかと思い、依然として部員がぎゃあぎゃあと五月蠅い温泉の方へ歩く。後ろからついてくる足音がしたので木吉も入るつもりなのだろう。

「てゆうかよぉ…」
「なんだ?」
「お前下隠してくんねえかな!?なに!?なんなの!?嫌がらせのつもりなのか!!」
「おお、悪い悪い」
「謝ってんじゃねーよダァホ!余計腹立つわ!」
「いたっ、ちょ、痛ぇよ…日向は理不尽だな…」

やっぱりもう上がろう。頭を振って踵を返した。何はともあれ、明日だ明日。かっこよく言えば、決戦の日。今日はよく眠ろう。