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「榛名ってさぁ…絶対人に気とか使えない人だよね」

ジトッとした目で榛名を見つめると、うっと言うように息を詰まらせてから、私から目を逸らした。うっせェ、と小さく言う声が聞こえたけど聞こえないふりをして聞き返す。

「えー!?なにー!?きこえないんですけどー!」
「ぅるっせェよおまえに関係ねェだろ!」
「はあー!?何その言い方!関係あるんですけどォー私あんたのカノジョなんですけどォー」
「てっめ…ほんっと減らず口だな!このブサイク!」
「そのブサイクと付き合ってるのはだれだこの雰囲気イケメンが!」

榛名と付き合い始めて新しく知ったことはたくさんある。思ったよりその睫毛が長いこととか、意外と野菜が好きなこととか、マメででこぼこして、固くなっている手のひらとか。榛名がアホみたいな言葉遣いで私に告白してきて、私がアホみたいな顔で返事をしてからまだ二週間しか経たないのに、毎日発見が絶えないのは面白い。面白いけど、だけど榛名は歩くのが早い。背も私よりだいぶ大きいからだろうけど、足が馬鹿みたいに長いからだ。ついていくために隣の私が競歩のような歩き方をしていることに、多分こいつは気付いていない。それを思っての冒頭の言葉だった。

「はーっ、ほんとに気の利かない男ねっお母さん悲しいー」
「てめェに育てられた覚えはねぇけどな」
「すぐ熱くなるしー馬鹿だしー」
「くっそ!悪かったな!」
「…あら」

私がだらだらと榛名の欠点を挙げていると本当に拗ねたのか、ぽいと私の手を放ってずんずんと歩くスピードを上げた。徐々にまた私は置いてけぼりになる。とうとう小走りでついていかなければいけなくなった。

「ちょっとー」
「…」
「榛名―!榛名―?榛名くーん!」
「…」
「怒っちゃったのー?ちょっとぉー」
「…」
「おい馬鹿榛名ー!」
「……」
「…元希ー」

小さくそう呼ぶと彼の大きな肩がピクリと震えた。歩みを進める足がいったん止まって、それからまた歩き出す。

「あれ?元希?もーとーきー!もーとー」
「うるっせぇよ早く帰るぞなまえ!」
「な…!」
「なななな何照れてんだ馬鹿野郎」
「…っに勝手に呼んでんだハゲ!」
「はあっ!?てめェが先に呼んだんだろ!てかハゲてねーよ!!」

私のその罵声が照れ隠しだなんて、きっと気付いてないよね、馬鹿。だけどそんな馬鹿みたいなことでさえ愛されてるなあなんて感じる私はもっと馬鹿。榛名は耳まで真っ赤にして、またずんずんと歩く歩幅を大きくした。私と彼の距離は開く。

だけどさあ、その大きすぎる歩幅も後先考えない性格も不器用な指先も全部、



「ちょっと元希ー!待ちなさいよー!!」



好きだなあって、思うわけ。




(120207)