私は正しくありたくて間違いたくなくて、そしてそれは緑間くんもきっと同じなんだろうと思ってた。 「嘘でしょ?」 「嘘じゃないのだよ」 「…馬鹿げてるよ」 「かもな」 「それを分かったうえで、なの」 「…そうだ」 テストの点はいつも100点じゃないと気が済まなかった。どこか知らないところに行くときは完璧に頭の中に地図をいれていった。友達とのおしゃべりでは地雷を踏んだりしないようにした。泣くときは誰にも見られないように。見えないものは見えないままで。褒められたらお礼を言う。悪いことをしたら(したことはほぼなかったけど)謝罪する。それをできていたのはなぜか。簡単だ。それが正しいことだったからだ。間違いではなかったからだ。そして緑間くんもそうだった。私たちは性質を同じにしていた。していたはずだった。 「裏切るようなのは、いらない」 私は正しくありたくて間違いたくなくて、、そしてそれは緑間くんもきっと同じなんだろうと思ってた。だけど、違ったんだ。全然、緑間くんと私だって、別の存在だったんだ。絞り出した声が、枯ればむ花のようだった。腐りかけの艶やかな匂いはこの場面には正しくない。これは間違っている、間違っている、間違っている。正しくないとわかっていて、間違ってるとわかっていて、馬鹿げているとわかっていて、それでもまだ改めようとしないなんて、そんなのもう緑間くんじゃない。ただの化け物だ。化け物が、私を見ている。ひどく悲しそうな顔をして。 「緑間くんは、もういらない」 頬が冷たかった。泣いているのは正しさを忘れたからでも間違ったからでもなくて、もう緑間くんと一緒にいられないことに、緑間くんを失くしてしまったことに、そしてそれが他の誰でもない緑間くん自身の選択だったことに、気付いてしまったから。私は正しいはずなのに、間違ってなんかないはずなのに、涙が止まらなかった。緑間くんの悲しい目は、まだ私を見ている。 乞う子供 (120908) |