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みょうじなまえと青峰大輝と桃井さつきは、幼馴染だ。小さいころから一緒にいて、それこそ裸の付き合いというのも何度かかわしている。今でこそ通う学校が違うものの、三人は中学のころまで仲良し幼馴染三人組と有名だった。たいていは青峰のせいで悪目立ちしているだけであったが。高校に入ってから遊ぶ時間が少しずつ減っていたが、それでも二人がオフの日は三人そろってどこかの家で自然と集まることになっていた。別に三人そろって何かをするわけではない。たまに格闘ゲームをしたりするのだが、大体それぞればらばらなことをしている。
今日も例に漏れず、三人はなまえの部屋にいた。青峰が座イスを占領して寝転びながらバスケ雑誌を読んでいる。なまえは今日は読書に興じていた。なぜかさつきは料理の勉強をしていたがそれが実践に生かされる日が来るかは正直怪しいものだ。ふと青峰がなまえのほうに目をやると、ちょうどその右目からすうと、涙が下がれるところだった。ぎょっとして体を起こす。さつきもそんな青峰に気付いたのか、なまえを見て事態を把握した。

「なまえちゃん?ど、どうしたの?」
「なんで泣いてんだよ」
「…このへんががね、すーんとするの。なんでだと思う」
「は?」
「え?」

胸のあたりを押さえて、どこか別のところを見ながらなまえがそう呟く。青峰も桃井も目を白黒させることしかできなかった。

「…ねえさっちゃん、大ちゃん。私ね、分かったの。あのね、私ね、…寂しいの」
「…なまえちゃん?」
「私、もう昔みたいに二人と遊べない。高校も違う、それだけじゃないよ、私には、二人にとってのバスケみたいなものなんて、持ってない。二人とは違うんだよ」
「なまえちゃん…」
「…なーに馬鹿なこと言ってんだよ」
「大ちゃん?馬鹿ってなに、」
「…じゃあ俺らが、なってやるよ。なまえの、俺らにとってのバスケみたいなもんに」
「…本当?」
「なまえちゃん、寂しいなんて、言わないで。私の方が寂しくなっちゃうじゃない」
「馬鹿じゃねーの、なに勝手に落ち込んでの」
「…私、なんにもないよ。私、多分ずっと見ないようにしてきたんだ。気付きたくなかったんだ、だけど」
「あーあー、もういいから。なあなまえ、そんなに寂しいなら、寂しくなくなるまでずっと三人でいようぜ」
「…ずっと友達?」
「ああ、ずっと、友達だ」
「そうだよ、友達だよ」

友達は、永遠だよ。そう桃井が言うと、なまえのくりくりと丸い瞳がより一層大きく開かれる。その拍子に涙がするすると頬を流れた。気付くといつの間にか桃井までが涙を流している。感極まったのだろうか。なまえの桃色の、柔らかそうな頬がいっそう濃いそれに染まる。ふにゃりと笑いながら「…うれしいなあ」と言った。さつきが堪らなくなったようにぎゅうとなまえを抱きしめた。それを覆うように青峰の長い腕が回る。少し沈黙した後、青峰が呆れたように言う。「…なにやってんだオレたち」「ふふ、わかんないね」「…なんだか眠くなってきちゃった」少し眠ったらどうだ?と青峰が提案すると、さつきがすぐに布団を運んできた。タオルケットも忘れずに。なまえが赤い目を擦りながらそこに横になる。「手を、繋いでもいいかなあ」二人はそれに快諾した。

「おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
「おやすみ、なまえちゃん」

お布団は今日も柔らかいなあと思いながら、すでになまえの意識は遠ざかりつつあった。こてんと横になり静かに眠るなまえを、青峰とさつきは優しく見つめ続けていた。「青峰くんのはほんとになまえちゃんが好きねえ」「うるせえ、オレはこいつが大事なんだよ」「まあそれは、私も同じだけど」「…てかよお、いい機会だから言っておくけど。お前も、遠慮すんのやめろ」「…」「なに黙ってんだよ」「ふふ、そうだね、大ちゃん」扇風機の風が、むにゃむにゃと微笑むなまえの髪をふわりと揺らした。ぎゅうと握られた手の温度が心地よいと二人は顔を見合わせて笑う。なまえが優しい夢を見られるように。そしてどうか、今が今のままであるように。できればずっと、今のままでいられるように。青峰は窓の方に目をやった。蝉が窓の縁に止まっている。じじじと弱弱しく鳴き、今にも息絶えようとしていた。程なくして力尽きたように、こてんと転がる。夏の終わりが近い。だけど、また夏はやってくる、何度でも。



アクアリウムの水槽で




HAPPY BIRTHDAY 青峰!
(120831)