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「あれ?なまえストラップ変えた?」
「ぅえ!?なんのこと!?そんなことないけど!!」
「…動揺しすぎじゃない?てかそれ、緑間くんにもらったやつじゃなかったっけ?」
「そんなこと…う…ナイデスヨ…?」
「ははあ、さては…惚れたな」

にやりと笑って友達が言う。すぐに言い返すことができないのも情けないが、実際惚れたのとはまた違うと思うのだ。ほら、あれだ。漫画とかでよくあるじゃない、不良が雨の中に傘もささずにさ、捨て猫なんかをさ、拾っちゃってさ、柄にもなく微笑んだりしちゃってさ、それを物陰から見てきゅんっとしちゃうみたいなシーン。見事にそのドツボに嵌ってしまったのが今の私である。いや、しかしそれってどうなの?私かなり軽い女じゃない?あんなに邪険に扱っちゃったのに今更きゅんとしちゃったなんてかなり図々しくない?そう思うと私の体は硬直してしまう。いやだ、私、緑間くんに軽い女なんて思われたくない。「それでせめてもの抵抗が、そのストラップというわけね」そうです、おわかりいただけたでしょうか。友人が諦めたように溜息をついた。

「なまえは、もう少し周りの目とか評判とか考えなくなればいいのにね?」
「うー…そんなこと言ったって、難しいよ。だって現状、私のところに緑間くんが来るのはみんな知ってるんだよ?散々断ってるところだって見られてるんだから、今更好き…じゃなくて気が、変わったなんて言えないよ」
「素直に好きだって認めなさいよ」
「…私にはハードルが高いです」
「はあ…変なところ頑固なんだからあ」

もっと簡単に恋すればいいのに、と再び盛大な溜息をついて言われた。はいで済めば警察はいらない。いや、いるか。
ともかく緑間くんのラッキーアイテム襲撃は今も連日続いており、私は未だにつっかえして、だけど結局受け取るという構図が出来上がってしまっている。とうとう周りも見飽きたのか帰っていく緑間に緑間乙ー!とかいうやつまで出てくる始末。みんな緑間くんを何だと思っているのとわなわなしながら友人に話したらお前には言われたくないだろうと冷たく突き放されてしまった。確かに。実際、緑間くんからもらったラッキーアイテムの山は部屋の一角を占領しつつある。いけない、いけない、いけないよ。最近つっかえすのが苦しくなってきてる。だって話しかけてくれて、嬉しい。ほんとはもっと、話したい。でも、認めたくないよ。今更好き?散々頑なな態度とっていて?うわあ無理無理無理無理!そんなこと言えないいいい!調子良すぎるでしょ!そんなはしたない子になりたくない!そんな風に、私の心の中では毎日嵐が吹き荒れている。

×××

夕方になるとなぜか緑間くんに遭遇する気がする。二人きりならうまく話せるだろうか…と感傷的な気持ちで教室へ戻っていこうとすると目の前にふっと影が下りた。不思議に思って顔をあげてみると、あれ、緑間くん!?

「朝ぶりだな、みょうじ」
「え、あ、緑間くん、こんにちは…」
「はは、もう夕方なのだよ」
「…笑った」
「…なにを驚いているのだよ」
「緑間くんって、バスケ以外ででも笑うんだね」
「…当たり前だろう、オレは人間だ」
「あっ、いやそう言うつもりで言ったんじゃなくてですね、その…」
「…」
「…(き、気まずい!)」
「みょうじ、それ…オレがあげたやつではないのか?」
「うへぁ!?なにが!?あ、これっ!?あ、違くて、いや違くないけど、えっと、あの…その、」

制服のポケットからはみ出したストラップを指さされて、そんなことを言われてしまえば動揺するしかないだろう。自分でも意味のわからない受け答えをしてしまって、再び黙ってしまった。沈黙が流れる。私は恥ずかしくて恥ずかしくて自分の上靴を見つめるしかできなかった。…やっぱり無理、無理、無理無理無理!二人でだって恥ずかしいものは恥ずかしい!顔から火が出そうだった。「…みょうじは、ずるいな」苦笑とともに緑間くんがそう呟くのを確かにこの耳は拾っていた。えっと思って顔を上げると薄く笑う緑間くんは続けていった。

「みょうじ、好きだ」
「…!」

ぎゅっと手をひかれて今度こそ真っ逆さまに落ちていく。私、軽い女だなあ、単純だなあ。でもいいや、もういいや。そんなのかなぐり捨てちゃっていいくらい、私もう緑間くんに惹かれてる。好きだなあって、思う。ああでもダメだ、やっぱりまだ言葉にできない、しちゃいけないって思う。頭の中で言葉が濁流のように流れてる。くらりと目が眩んだ。「あんまり、期待させないでほしいのだよ」やっぱり緑間くんて策士じゃない。誰よ純粋そうとか言ったの、ああもう昨日には戻れないよ。おかしいなあ、不思議と怖くないのは、夢見てた緑間くんの腕の中にいるからですか?



イン  ホール


いちはさん リクエスト ありがとうございました!
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