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「げえっ」
「どうしたのなまえちゃん?」
「…今、何時か、わかる?」
「どうしたんだみょうじ?ひどい顔だぞ」
「木吉くうううん、ちょっとおおお、今、何時かわかるって聞いてんのおお」
「あ、ちょ、ごめ、あ、揺らすの止めて、ちょ」
「鉄平が死にそうになってる…」
「ざまあみろだダァホ」
「5時45分ですよ」
「…黒子くんそれ本当に?」
「本当です」

黒子のその言葉を聞くと、みょうじの顔色は急に青ざめていき、すぐさま荷物をまとめ出した。心なしか額に大量の汗がにじみ出始めている気がする。いや、多分気がするだけだけど。さっきまでぶんぶん揺らされていた木吉もどうやら態勢を立て直したらしくみょうじにもう一度どうした?と聞いていた。みょうじはその言葉に半泣きになりながらこちらにきっと目線をやった。

「うちの!おばあちゃん!すっごい怖くって!時間とか厳守だから!そんでもうすぐ晩御飯なの、ほんとにやばいの!」
「お、おう、大変だな…」
「というわけで、帰る!じゃあね、バイバイ!」
「日向くん送ってってやんなさいよ」
「はああ?なんでオレが」
「行ってこいよ日向」
「木吉までなんなんだよ…ったく」
「あ、いいよいいよ、本気で走るから!ひどい顔になってるとこ見られたくないし!」

苦笑しながらみょうじはそう言った。忙しなく帰宅の準備をする手は止めずに。その言葉によかったと胸を撫で下ろすような、ちぇっと舌打ちをしたくなるようなわけのわからない感情がつのる。いやいや、前者はいいにしても後者はおかしいだろう、落ち着けよオレ。

「じゃあ、帰るね!バイバーイ!」
「あ、ちょっと待てよやっぱり」

オレの言葉なんぞに耳を貸さずに、みょうじは体育館の入口に走っていく。すると、体育館を出る直前でなにを思ったのか足を止め、くるりと振り返った逆光でその表情まで正確には把握できなかったが、声色的にはきっと笑っていたのだろう。

「バイバイじゃなかったね。また明日!」

言い終わるとみょうじはくるりと背を向けバタバタと慌ただしく走っていく。その後ろ姿を黙ってみていた。周りはじゃあなーとかまた明日ーとかありがとうございましたーとか、様々な言葉を飛ばしている中で、オレだけが黙ってしまっていた。なんか言わねえと。ちくしょう、頭がまわんねえ。なんだこれ、まじで動悸がおかしいぞ。