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どうして私なの?と問えばにっこりと毒気のない、少年特有の笑みで「年上と付き合ってみたかったからっス!」なんてからっと言われてしまった日から、私はなんだか高尾くんのことが好きになってしまったらしい。なぜだろう、あまりにも正直な動機だったからだろうか、屈託がなかったからだろうか。なまえさんだから、なんて耳をふさぎたくなるほどの甘い言葉とは程遠いそれが、私にはなぜかこの上ない愛の言葉に聞こえてしまったのだから始末が悪い。年上だから。いいではないか。そんな理由でだろうと彼に選ばれたことを光栄に思う。私がするべきことはこの幸運に感謝することだ。どうやら恋愛というものは惚れたもの負けらしい。っておじいちゃんが言ってました。嘘だけど。

「もー、なまえさん、何してんスかあ?」
「おー!高尾くん!あれー?なんでこんなところにいんのー?」
「あんたが呼んだんでしょ。電話してる時からもしかしてとか思ってたけど、酔っぱらいすぎっスよ」
「私高尾くんなんてえ、呼んでないしー!」
「明日テストだっつーんに来てやったのになんスかそれ…」
「おおー、学生は大変だー!」
「なまえさんだって学生でしょーに…」
「大学生は学生に入んないってえ、ひっく、先輩が言ってたー!」
「ったくこの飲んだくれは…仕方ねえなあ」

私はそのときラーメン屋にいた。どうして高尾くんがここにいるのか。すぐには理解できず私は時間を遡る。ああ、そうだ、ぼんやり思い出してきた。その日一つ上の先輩に誘われて夜の街に繰り出し、締めということでラーメンを食べよう!となったところで先輩に彼氏さんからお電話が。ラブコールとでも言おうか。それが来るなりきりっと酔いが醒めた顔になった先輩は入念に化粧を直し始め、注文したラーメンをそのままにタクシーに乗り込んでしまった。くそう、結局最後は男を取るのが女という生き物だ。お酒の力で満腹中枢が狂っているとはいえ、一人でラーメン二つは食べられない。そこで私はどうやら高尾くんに救援を求めたらしいのだ。ぼんやりとそれを回想する傍ら、生理的な涙で滲む視界の中で、高尾くんが子供をあやすような顔で笑う。年上だからという理由で付き合ってもらっているのというのに、なんだかこれでは私のほうが子供みたいではないか。これでは契約が履行できない。全然なっちゃいない。自分がじわりと焦っているのをどこか遠くで感じていた。愛想の悪い店主がラーメンを運んできて、それを受け取った高尾くんは手際よく箸を割りずずずとラーメンを口に運ぶ。良い食べっぷりに、思わず見惚れてしまった。私だって年端の行かない小娘だが、その姿を見て若いなあと思った。

「んー、かわいいねえ、若いなー。高尾くんは素直でー頭もよくてー、でも紳士でー、そんでもってイケメン!そんでもってかわいい!オネーサンはこんな素敵な彼氏を持って幸せです!」

あははは、と酒の勢いもあって、そんなことを口走って大声で笑い飛ばす。冗談半分、というよりは八分目くらいのその言葉を聞いた途端に高尾くんの目がすうと薄められた。私はそれを無視して、というよりはちゃんと認識できずに、気だるい腕を伸ばして高尾くんの髪をするする撫でた。さらさらの髪はお風呂に入った後だからか、少しだけ濡れていた。「かわいいってなんだよ」その手首をぎゅっと掴まれ、ぼそりと呟かれた言葉を脳味噌が理解する前に唇を柔らかい感触が襲う。突然のことに自分でも驚くほど唐突に酔いが引いていくのを感じた。しばらくして唇から離れたと思えば、高尾くんが笑って口を開く。

「スキありすぎじゃねえ、オネーサン?」

あれあれあれ、高尾くんってこんなに毒気のある笑みを浮かべる子だったっけ。猛禽の目が私を射抜く。きゅうううと子宮が締まるような感覚に囚われた。酔いの回った頭では正常な思考なんて働かない、ことに、してもいいかしら。私たちはいつの間にか会計をすまして店の外にいた。誰が払ったのかはわからない。高尾くんかもしれないし、私かもしれなかった。頭は冴えているはずなのに体は熱に浮かされているみたいだ。ぎゅうと私の手のひらを握りしめ少し先を歩く高尾くんの背中を滲んだ視界に収めながら、ああ今日私は彼に抱かれるのだなとぼんやり理解する、ううん確信する。明日のテストはどうするの。その言葉を喉元に落とし込んで、私は今から高尾くんと、二回目の恋に落ちるのだ。




キスして








決壊



素敵企画Young Lady!!に提出しました!ありがとうございました!
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