「鈴木先輩!」 「「はい?」」 「…あ、ごめなさい、えっと、鈴木葵先輩の方です…!」 「何だオレかー。もう、みょうじ、ややこしいからいい加減名前で呼べよお」 「いたいいたいいたい、頭掴まないでください!す、いませんつい癖で!」 「だーからその癖を直せって言ってんの。で、なに?カントクが呼んでる?」 「あ、はい。お呼びです、一緒に行きましょう」 「おう。ったく、かったりいなあ」 「葵!帰ってきたら打ち合わせの続きな」 「わーってるって。じゃあ行ってくんな」 最近できたオレの彼女は、オレと葵のことを鈴木と呼ぶ。この部の部員の中にも、応援に来てくれるOBの中にもオレたちのことを鈴木と呼ぶ人はいない。ある意味特別な呼ばれ方だと思うけど、嬉しくないよなあ、こんなの。 葵はずけずけといろんなこと言えていいなあと思う。まあ馬鹿だから何にも考えていないだけだと思うけど。オレ、あんな風にぐいぐいいけねえ、迂闊に髪なんか触ってしまえばオレの心臓のほうが麻痺しちまう。横から航先輩が「いや、一応葵だって男なんだからな、そこじゃねーだろ問題」とか言ってたけど無視だ。だって葵じゃん。 帰り道はとぼとぼとできるだけ遅いスピードで歩く。自転車があるけど乗ろうと提案したりはしない。精いっぱいのオレのがつがつしたところだと思う。横ではあ、とみょうじが溜息をついた。それを不思議に思って声をかける。 「どうした?」 「、ごめんなさい、…今日も鈴木先輩に怒られてしまったなあって思って」 「あー、あれね、葵のやつ怒ってねえから。ああいうやつだから気にしない方がいいぜ」 「でも何回同じこと言われるのに直せない私が悪いんです!」 「…」 「やんなっちゃう、もう…」 「あー、どうだろ、とりあえずオレだけ名前で呼んでみる、とか」 「…はい?」 「あ、いや、そういうんじゃなくて!いつも言ってっけどオレと葵、同じ鈴木だし!鈴木先輩って呼んでたんじゃなんかわかりにくいかなって思って!そう、思っただけ!べ、別に呼びにくいなら、イイヨー、とか言っちゃったりして。あ!んでもってオレは、呼んでほしいけど!」 「…私、呼んでもいいんですか」 「はい?な、なんでみょうじがンなこと気にすんの!だってお前、オレの彼女だろ!」 「…だって」 「…だって?」 「私、自信、なくって、でも、好きで、どうしようとか、思ってて、それで」 「あーあーあー!ごめん!オレも、気付かなかった!ほんとワリィ!」 「そんな、鈴木先輩が謝ることじゃなくて、勝手に私がうじうじしてただけです!」 「あ、えーと…涼先輩ね?」 「う、あ、涼、先輩が謝ることじゃないんです!」 顔真っ赤にしてやんの、かーわいー。みょうじが泣きそうな顔をしているのにオレはそんなことを考えていた。年上のヨユーってやつだなこれは。 「…ま、とにかく、みょうじはみょうじでちゃんとオレのか、彼女なんだから!そんなに気にすることねーって!な!」 「は、はい…」 「と、とりあえず帰ろうぜ、もうこんな時間だ」 「そうですね…」 手をつなぐとかとても無理で、それなのにオレ汗臭いかな、手汗大丈夫かな、とか、そういう乙女っぽいことを気にしちゃう辺りまだまだ恋愛真っ最中のオレですが、隣の彼女の唇をいつ奪えるのかなんて、そんなことを考えている日々でございます。おあとがよろしいようで。 「あの、涼先輩」 「ん?」 「…私も、呼んでほしいです、その、…名前で」 がつん、と頭部に衝撃音。眼球圧迫、警告警告。みょうじの小さくなっていく語尾なんて気にも留めなかった。じわじわ湧いてくる幸福感に飛び上がって喜びそうなのをぐっとこらえて、おう、わかったと澄まし顔で言ってみる。今度こそ本当に、おあとがよろしいようで。 ティーンエイジ悲喜交々 乃瀬さん リクエスト ありがとうございました! (120818) |