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※微裏です



「ふ、…っ」

鼻から漏れる猫のような吐息を誤魔化すのに精一杯で、今自分が何をされているのかなんてとても気にする余地がなかった。私と青峰くんがどうしてこんなことをやっているのかというとそれなりの関係だからだ。その一言に尽きる。
青峰くんの大きい手のひらが、長い指が多分今私の体中のいたるところを這いずり回っている、はずだ。多分というのはそれを私が直接目で確認していないからで、もちろん恥ずかしくてそんなことできるわけもないのだけれど。私の体で一番温度が高くて柔らかい部分が、蹂躙されている。

「声、別に出してもいーんだぞ」
「うる、さい、だいじょ、うぶ」
「素直じゃねえなあ」

気持ちいいとか気持ち悪いとかクラスの友達が声高に話していたけれどこれはなんともいえない感覚だと思った。確かに刺激を与えられると気持ちいい、と思うような部位は多分、あるのだろう。けれど私には依然としてそれを理解する余裕はないようだ。気持ちいいような気もしたし、気持ちよくないような気もした。私の上で蠢く青峰くんの影は怪物のようだった。ああ、正しく私は今食べられているのか。暗闇の中で青峰くんがニヤリと笑った、ような気がした。

青峰くんが浅く達して、私は多分達せなかったのだけれど気持ちいいとでも言うように少しだけ呻いて見せた。感覚的にどれが達する、ということか分からなかったのだけれどその時がきたら本能的に脳みそが理解するのだろう。ふう、と息をつくと青峰くんも横で大きく息を吐いた。満足そうな顔をしているので悪くはなかったのだろう、と少しだけ安堵する。私はいつだってどこか見栄っ張りだ。

「なに泣いてんだよ」
「なんでもないよ」
「あ?でも泣いてんじゃねえか」
「…ただ、あんまり幸せだったから」

絶望してしまうにはまだちょっと匙加減が足らなくて、だけど希望を持つには余計なことを知りすぎてしまったのだ。青い果実は熟さないままもぎりとられていく。想像していたよりもずっとあっけないなあと思った。処女を失うことも、こうやって青峰くんにつく嘘を増やしてしまうことも。見える景色は始める前と何一つ変わってくれなかった。当たり前なのだけれどその事実に少しだけ失望する。変われる気がしたのだ。この距離感も、何より自分自身も。そんな浅はかな自己満足をひそめた行為に、青峰くんを付き合せたことが今になって恥ずかしくなってくる。誤魔化すように青峰くんの喉元を指でなぞる。どうか君だけはそのままでいてくれるように。それをじゃれてきたと受け取ったのか、青峰くんが珍しく優しい色で笑った。もう一度抱き寄せられてシーツがたわむ。分厚い胸元はうっすら汗をかいていて、不快なはずなのにちっともそんなふうには思えなかった。「なまえは誤魔化してばっかりだな」どこかさみしそうな声は聞こえないふりをした。少女から一つ大人になった私は願う。その声がそのまま、愛する人の名前をずっと優しく呼び続けてくれるように。もう二度と少女に戻れない私は、いずれ確実に君を置いていってしまう私は、それでも祈る。


どうか君だけは、そのままでいてくれるように。




柔く壊す





輪さん リクエスト ありがとうございました!
(120817)