「するのだよ」 何をだ。 そう思ったのも束の間、真太郎はご丁寧に自ら私のWiiをテレビに接続し始めた。いや、それ私のだからね、落ち着いてね。勝手に触ってんなよ緑間クン。緑間がこの家に遊びに来るようになって、することも会話もがなかった最初のころに慌てて提案してしまったのがテレビゲームだった。しかしまさかこんなに彼がこれに嵌るのは予想外だった。聞けば家にはゲーム機など存在しないらしく、今までしたことがなかったらしい。さすが、勉強の合間の息抜きにとバスケを始めただけある。見かけを裏切らず、彼の家には厳格な家風があるらしい。それに対して私なんて兄貴の前を寝巻きのままデコ上げて腹をぼりぼり掻きながら歩いちゃうくらい汚らしい家系の育ちだし、まあ言ってしまえば下々の住民、村人Aなわけで、だから最初のころは少しだけ気後れもしたものだ。しかし真太郎の世間知らずは想像以上のもので、気付けばもはや母親的視線で見ている時もあるのだから慣れって本当に怖い。まあ、そんなわけで、真太郎が割と初期に目をつけたのがこのテレビゲームだったのだ。テレビから起動音が聞こえる。 仕方ない、やってやりますか。 「ちょ、卑怯なのだよなまえ」 「うるっさいわねいつまでカービー使ってんのよ初心者かっ」 「ああっ、しまったコマンドを間違ったのだよ!」 「ふふふネス使い10年目のなまえちゃん舐めるんじゃないわよ」 「ちいっ、卑怯な手口を…!」 「ほらスマーッシュ」 「ああ…!」 真太郎がコントローラーを投げ出す。テレビ画面が次のキャラ選択の画面に切り替わった。もう何ゲームしたことだろう。いつまでたってもカービーを使い続ける隣の秀才クンはいつまでたっても上達する兆しがない。いや、そりゃ最初よりはほんのちょっとうまくなっているのだろうけど、未だ私に勝てる兆しが全くない。真太郎の前だからでかいこと言っているけれど私はお兄ちゃんにはよくて一勝しかできないレベルなのだからそんなにうまくもないのだけれど。ベッドを背中にして、こいつはなぜこうも少年のまなざしで画面を見つめているのだろうか。ああもうじれったい。 「もういい。止めるのだよ」 「勝てないなら挑んでこなけりゃいいのに」 「人事を尽くして天命を待つ。今日もオレは人事を尽くしたまでだ」 「負けず嫌い。素直に飽きたって言いなよ」 「何を言っている。…ほかにすることが見つかったのだよ」 そう言って、真太郎が背面のベッドを見やる。視線だけで何が言いたいのかを理解した。こらえきれずににやりと笑ってしまう。なんだ、わかってるじゃない。しょうがない、黙って押し倒されてやりますか。 「真太郎って顔に似合わずムッツリだよね。いや、違うか、顔に似合うからムッツリなのか」 「うるさい。分かって乗ってきたのはお前の方なのだよ」 「きゃあ、乗ってきたなんて性的ぃ」 「もう黙れ」 ぎしりとスプリングが軋む音、なんてわざとらしい表現をするまでもないね。真太郎の眼鏡を外してやって、甘い口付けに溺れるように目を閉じる。時折漏れ出る吐息まで愛しかった。クーラーがごうごうと動く音がしている。真昼間からなにやってんだろうね私たち。くすりと笑って耳を甘噛みすれば「集中しろ」とまた唇を奪われる。はいはい、承知しました王子さま。ね、息をするのを忘れないようにしないといけないね。じゃないときっと私たち、このまま窒息してしまうから。 |