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日向くんとその後ろの人たちが(きっと、というか絶対にチームメイトであろう)、あんぐりと口をあけているのがおかしくってけらけらと笑った。日向くんがずれおちそうな眼鏡を上げながら、ああああああ、などと絶叫する。なんだその、幽霊でも見たみたいな顔は。

「あ、あんた…!」
「え、なによお、あんたって失礼だな」
「だってお前、この前、勝手に消えて、え、え?」
「知ってる道に出たから帰っただけよ。おばあちゃんから夕飯急げって電話かかってきちゃって」
「はあ!?だからって突然いなくなることねえだろ!」
「ちゃんと日向くーん、て呼んだよ。でも日向くん走るの速くって聞いてなくて、でも本気で急いでたから、仕方なく」
「なんだそりゃ…」

日向くんがはあ、と盛大に溜息をついた。私だって悪いと思っている。しかしおばあちゃんのげんこつのほうが怖かったのだから仕方ない。しかも、私も精いっぱいの声でお礼は言ったつもりだ。私は最低限の義務を果たしたはずだ。そう思いながら日向くんの眉間の皺を見つめていると、彼の肩越しから猫みたいな印象を受ける男の子がにゅっと顔を出した。私の顔を見て、それから全身を見て、最後に日向くんのほうに顔を向ける。

「ね、ね、ね!日向!この子が昨日の夜言ってた幽霊ちゃん?」
「はい?」
「あー!なんでもねえなんでもねえ!…それより、あんた、名前はなんていう、んだ、あー?…んスか」
「キャプテン、火神くん並みに日本語おかしいですよ」
「黒子てっめえさりげなくディスってんじゃねえよ…!」
「まあまあ、火神、落ち着け、な、黒子も…!」
「ボクは落ち着いてます」
「はっ、落ち着いてる…!?キタコ」「きてねーからな、伊月、落ち着こう?な?」
「ちょ、外野黙ってくんねー!?オレこの人と喋ってんだけどおお!!」
「外野って…おいおい日向、バスケに外野はねえぞ」
「ほんとうぜえな木吉おまえ!わざとだろ!わざとやってるだろ!」
「キャプテン、落ち着いてください」
「…ぷ、はははっ、あはははは!」

日向くんとそのチームメイトの会話が面白くって、つい吹き出してしまった。笑いだしてしまったらとまらなくて、ついに涙まで出てきた。いけない、ツボに入っちゃったみたいだ。ぽかんとしている周囲に気づいて慌てて笑いをこらえる。が時すでに遅し。何笑ってんだこの人的な目線を送られた。日向くんが呆れたように言葉を発する。あれですか、キャプテンだから代表で苦言ってことですか。

「なに、笑ってんスか」
「ぷくくっ、いや、はははっ、仲いいなあって、思って、ははっ」
「はあ!?今の見てどこが仲いいって言うんスか意味わかんねえ…!」
「えっ、オレ日向と仲いいと思ってたけどオレだけだったのか…?え、伊月、オレ友達じゃねえ?」
「オレは友達だと思ってるぞ?それより、仲良くナカった…おい、これやばくね!?」
「伊月ぃ〜、ダジャレのレベル落ちてるってえ」
「火神くん、ボク、火神くんと仲いいんでしょうか」
「それを本人に聞くのかよ…」
「…いやあ、まあ、なんか、そういうとこだよね」
「よくわかんねっスよ」
「いいなあ、青春って感じだね!憧れる、そういうの」
「はあ…」
「あ、それと日向くん、敬語使わなくていいよ、同い年だし」
「は?」

まあ皆の反応を見る限り、どうやら自己紹介をしていなかったらしい。私としたことがうっかりしていた。もう一度姿勢を正して、えへんと咳込む真似をした。こういうのは形が大事だと思うのだ。みんなの視線が自分に集まるのが恥ずかしくもあり、だけど誇らしくもあった。

「ご挨拶遅れました。みょうじなまえ、高校二年生です。よろしくね」

日向くんがぼそりと、私の名前を復唱するのを、口の動きから読み取った。空が高い。汗がとろけるように流れていく。今日は晴天だ。