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びしゃあ、とすごい勢いで水が飛んできて、目を瞑る。冷たいと思う以前に、水圧のせいだろう、かかったところが痛かった。ホースの口を私の眼球が捉えたころには既に遅かったのだから私に非は全くないはずだ。なのに謝罪の声が一向に聞こえてこないと思って、ゆっくり目を開けると視界の向こう側では青峰が腹を抱えて大爆笑していた。空が高い真昼のことだ。

「ちょっとあんた…!」
「あっはっは、いや、わりぃな。やべえ、漫画みてえ、なまえクソマヌケ」
「なんで私が悪いみたいになってんの!お前のせいだわ!」
「やっべえ、ちょ、ツボ入った…!」
「なんなのあんた…!」

どつきまわしたい気持ちをぐっと堪える。リュックを背負っていたので、どうやら教科書類は濡れずに済んだようだ。そのかわり正面はブラウスからスカートまでびしょ濡れだ。相乗効果で熱が発生している気がする。太陽も憎いがそれ以上に青峰も憎い。

「ほんとありえない、どうやって帰れっていいやがるんですかねこのアホ峰君は…!」
「なまえ、へへ、下着が透けてるぜー」
「げっ、嘘!?ちょ、ほんっと…死ね!」
「口わりーな、ちっとはマイちゃん見習えよ」
「うっざい!お前にマイちゃんの何がわかるのよ!」
「いやあ、ピンクと黒かあ、意外と刺激的な色じゃねーか。うん、75点」
「採点すんなあ!大体あんた、いつも私に色気ねえとか言うくせに、何言ってんのよ!」

青峰がホースを手にしたまま、ぽかんとした顔をした。すぐにはははと、珍しく快活に笑った。そんな顔もできたのか。夏空にぴったりな、からっとした笑みだった。いや、私のはらわたも夏野菜カレーの鍋くらい煮えたぎっているのだけれど。

「いやあ、男子高校生ですから」

青峰がにやにやと笑う。そんな理由でなんでも許されると思ってんのか、男子高校生なんてクソくらえだ。どうせなら好きな子の下着だから見たいくらい言って私をときめかせてみろっつーの、ちょっと期待しただろ、ばっかやろー。青峰がホースの水を止めに水道場まで歩いていく。小突きにいけないような、この距離感が、もどかしい。爽やかな青空のもとで、私たちはなんにも変わらない。変わらないでほしい自分と、変わってほしい自分、それが上手に共存しているのはきっと今だけだ。暑さに絆されているのだ。私も、そうして青峰も。


「…なんスかあの痴話喧嘩」
「ねー、早くくっつけばいいのに、青峰くんもなまえちゃんも素直じゃないんだから!」
「青春っスねえ…」



ホースとじゃじゃ馬、










(120803)