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「オネーサン!」
「…はい?」

テストも山にさしかかり、ファミレスで必死に友達のレジュメのコピーと格闘していると、急に男の子に声をかけられた。…いや、かけられたというか、私は耳にイヤホンをして音楽を聴いていたので、多分最初の彼の声が聞こえなかったのだろう。机をドン、と叩かれてやっと彼の存在に気が付いた。向かいの席にいたはずの友達はいなくなっていた。大方トイレか、ドリンクバーってとこだろう。声をかけられた方に首を動かすと、制服を来た男の子が立っていた。

「…誰ですか?」
「あ、オレ、えっと、鈴木涼っていいます、春日部市立の二年っス」
「あー、そうなんですか」
「えっと…突然なんスけど、アドレス!教えてもらえないスか!」
「…はい?」

ぴくぴくと震えながら、目の前の少年はそういった。突然のことで私も口を空けることしかできなかった。そもそも君は誰でしょうか。もしかして知り合いかなんかでしょうか。

「えーと私、あなたのこと」
「涼っス」
「…涼くんのこと、よく知らないし…」
「ただいま〜…てあれ、どなた?なまえの知り合い?」
「こんちは!」
「こんにちは〜。元気いいね、高校生かあ」
「うっす!」
「あはは、野球部っぽいねえ」
「野球部っス!キャッチャーやってます!」
「ちょ、ちょっと待ってよ何打ち解けてんのよ」
「あ、そうだ!オレ、なまえさんにアドレス聞きたくて!」
「あー、そうなのお。なまえ、教えてあげなよ」
「お願いします!」
「…なにこれ、そういう雰囲気?」
「お願いします!」
「…いーけどさあ」
「ふふ、よかったねえ野球少年くん」

スマートフォンから赤外線のアプリを起動させる。携帯同士を近づけて、私のデータが彼のほうに移行していく間二人は無言だった。友達はというと肘をついて私たちを見つめている。ふと上を見上げると、涼くんの顔を下から覗き込む形になっていることに気付いた。うわあ、まつ毛長いなあ。スポーツをしているらしいからもちろん体格はいいのだが、よく見てみたら美少年というやつではないか。「あ、届いた?」「オッケーす、あざした!」そう言って携帯をポケットにしまった。にっこりと満面の笑みが顔に広がる。ま、眩しい…。これが若い力というやつか…。反して私は連日の徹夜で顔には生気があまりないという、無様な感じだ。たった二歳か三歳かしかかわらないというのに、なんだろうこの差は…。

「なんだ、涼のやつえらい積極的じゃねえ?」
「ちょ、お前押すなよ…!」
「わ、ちょ、航先輩倒れますって…!」

そんな声がしたかと思おうと、柱の陰からこちらを見ていた男の子たちがまるで漫画みたいにどたどたと折り重なって倒れていく。涼くんがびくっと肩を揺らした。

「おっまえら…!」
「え?お友達?」
「え、あ〜…そうっす」
「…あれ?もしかして私からかわれてた?罰ゲームかなんかなの?」
「んっなことねえよ!いや罰ゲームだけど!でもオレ、ずっとなまえさんのこと気になってて!…おい!てめえら早く席に戻れ!先輩も!早く席戻ってください!」
「涼!公共の場で叫んでんじゃねえ!」
「そうだぞお。リア充爆発しやがれ!」
「…ついてった方がいいんじゃない?」
「あーもう…なまえさん!今日!夜電話すっから!」

涼くんが振り返りざまにそう叫んで、離れていく。私はそれを呆然と見つめていた。目の前に座る友達の笑い声がする。

「なーに顔真っ赤にしてんのなまえー」
「べ、つに赤くなってないもん…」

だから涼くんは知らない。涼くんが去った後の私が顔を真っ赤にしていたこと。私今、テスト期間で髪もぼさぼさだし化粧もノリが悪いしなんかむくんでるし右のほっぺには真っ赤なニキビだってあるのに。おそらく史上最悪に不細工なのに、なんで今なんだ…。思い出して、恥ずかしくて下を向いた。友達がニヤニヤと笑っているのが容易に想像できる。高校生なんて恋愛対象外でしょ。涼しい顔でそう言ってしまいたかった。だって私、もう子供じゃないもん。なのに携帯を握りしめて、ちょっと期待している自分がいるのだから、情けない話である。ちょっとお、涼くん、どうしてくれるのよ。こんな気持ちでテストなんて、乗り越えられる気がまったくしないじゃない。




怜さん リクエスト ありがとうございました!
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