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「はーい、ストップ!一回休憩ね!」

ピー、とカントクが笛を吹いて、そう叫ぶ。全員が汗だくで眉をぴくりとあげた。嬉しいのだ。フットワークが終わり3メン、2対3など練習が続く。全部地味にキツい。休憩を待ち望んでいたときに伝えられた朗報に胸を高鳴らせた。コガが一目散に外へ出ていく。体育館にこもる熱気は未だ、鬱陶しい。コガに続いてぞろぞろ部員が出ていく。

「あっちーなオイ…」
「うひょー!なあ日向!外やべえよ!チョー涼しい!」
「コガ…少し黙ってくんね?なんならフットワークからも一回やってもらってもいいんだけど」
「なんか日向怖ぇーよ!」
「暑いからなあ…日向もイライラするんだろ」
「おい、やべえぞ…!」
「鉄平、どうしたんだ?」
「今日の気温、37℃だってよ…!」
「…」
「…うわあ聞きたくなかった」
「間違いねえなんで言うんだよこんのダァホ!」
「てことは…体育館の中って何℃?」
「ツッチーそれ考えるの止めようぜ…!」

外に出ると、涼しい風がふわりと吹いてきて、不快指数を一気に下げていく。みんなの髪からぽたぽたと汗が垂れて床に染みを作っては消えていった。アスファルトも相当熱いらしい。それなのにせっかく下がった不快指数も、木吉の一言で再びぐんと上がった。熱いと感じるだけと、実際の気温を知るのとではまた全然違ってくる。さっきまで涼しかった風も急に温く感じ、体を流れる汗がまた鬱陶しくなってきた。「つーかまじあちい…湿気うぜえ」とか呟きながら火神がすごい勢いでドリンクを飲みほしていく。…おいおい、そんな大量に飲んだら練習始まって腹いたくなっちまうんじゃんーの?

「あちー」
「あちいなあ」
「さっきからそれしか言ってないなオレら」
「てーか次なんだっけ?」
「えーと…誰かカントクに聞いてこい…」
「やべえー太陽高ぇわ」
「早く5対5してえなー」
「おいおい、基礎が大事だぞコガ」
「分かってるって木吉ぃ…てあれ、ね、なんかすごいかわいい子いない?」
「は?どこだよ」
「ほらあそこー!生垣の向こう歩いてる子!」
「んなの顔まで見えねえよ…」

コガが失礼なことに歩いている人影を指差してそう言った。叫ぶな馬鹿、聞こえてたらどうすんだよ。伊月がそんなコガに呆れている。と思ったら、その少女は急に方向をかえたかと思うと駐車場を抜けてこちらに近づいてきた。

「おいおいこっち来ちゃったぞ馬鹿!」
「え、聞こえてたのかなあ…!いやでも褒め言葉だったし別に大丈夫っしょ!」
「コガのそのポジティブが今すげえ羨ましいよオレ…」
「コガ先輩のせいですね」
「ぅ、わあ!黒子か!びっくりさせんなよ…!」
「あーやばいやばいっておい、誰か言い訳考えとけ…って、あ?」
「ん?どーしたの日向」

ボーダーのポロシャツにショートパンツ、そして白い肌に黒い綺麗な髪。昨日とは随分雰囲気が違うがその姿に見覚えがあった。コガが後ろでぎゃあぎゃあとうるさい中、ずんずんと少女は近づいてきて、とうとう目の前まで来た。 

「やっほー日向くん。来ちゃった」

幽霊は、どう見たって生身の人間らしい顔でニコリと笑った。