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「それってあれでしょ、ズバリ、幽霊!!」

コガがドヤ顔というべき顔でこちらをびしいっと指差す。おい、ドヤ顔やめろマジでイラッとすっから。風呂上り、ミーティングも終わって布団を敷かれた和室で夕方の一件を話したところ、一番に口を開いたのがコガだった。横で水戸部が心なしか青ざめている気がする。…え、水戸部もしかして怖いのか?

「はあ?なーに言ってんだコガ。そんな非科学的なものこの世にいるわけねーだろ」
「そんなことないって!オレ、こんな話聞いたんだよね!この民宿ってさあ」
「あの、ちょ、…止めないっスかそういうの」
「なんだ火神。怖いのか?」
「こ、わくねえよ…!ただ、その、なんつーか、」
「怖いんですね」
「てめえ黒子!」
「はっ、幽霊にお礼する…!キタコレ!」
「キてねえよ馬鹿野郎」
「いやいやそれよりさ、さっき民宿のおばちゃんに聞いちゃったのオレ」
「あー!まじで止めてくれ!まじで止めてくれ!」
「あははー火神敬語抜けてるぞー」
「木吉先輩もなんか言ってくれ!…っス!」
「コガ先輩、ボクその話聞きたいです」
「黒子に至ってはわざとだろ…」
「黒子ォ…!」
「あーもう!収集つかねえ!お前らに話したオレが馬鹿だった!」

わああキャプテンごめん!とコガが後ろで叫んでいる。うるせえ。本当に、真面目な話をしたかったというのにまさかオカルトに巻き込まれるとは。先ほどの白いワンピースの少女を思い出す。オレは確かに彼女と会話したし、その会話も彼女の反応もごくごく庶民的なもので、なんというか世俗的なものだった。あれが幽霊だったら、もう人間は幽霊と共存できる気がする。あんなに親しみやすい幽霊が居てたまるか。明日も朝が早い。そろそろ寝るべきだろう。

「おーい、そろそろ寝んぞ!電気消せー」
「ういっす」
「火神くん助かったって顔してますね」
「もうお前黙ってくんない…?」
「こんなに長い合宿滅多にないよな」
「10日間かあ…あと9日…」
「…死ぬかも」
「多分死ぬな」
「…オレ、早く寝るべきだと思う!」
「ダァホ!だから寝るっつってんだろ!」
「おや、すみー」
「木吉は早すぎだ!なんでもう眠りにつきそうなんだよ!」
「降旗ー、電気消してくれ」
「う、うっす…!」
「まっじ黒子死ねよ…」
「あ、火神くんこんな話知ってます?炭鉱に閉じ込められた少女の話」
「それ以上言ったらまじでぶっ殺す」
「なになに黒子ー?俺その話聞きたい!なあツッチー!」
「おう!聞かせてくれ!」
「うるっせええ!寝るぞダァホ!」

ぱちん、と電気が消える。降旗がやっとスイッチを押したらしい。普段ならそんな簡単に会話がやむはずもないが、今日は初日ということでみんな少し疲れていたのだろう。おもしろいほど簡単に会話がやんだ。どこかで寝息すら聞こえる。こんなことなら最初から電気消しとけばよかった。

「なあ、日向」
「…んだよ起きてたのかよ木吉」
「さっきいってた女の子だけどさ」
「…あ?」
「オレ、ちゃんと人間だと思うぞ」
「…」
「まあ、また会えるといいな」
「…うるせー、オレだってそれくらいわかってるわ」
「はは、だよな。そんじゃオレ寝るわ。おやすみー」
「…おう」

あの少女が幽霊ではなく人間というのは大前提であって、確かにもう一度会いたいと思っている自分がいる。だが、木吉の言うとおりになるのはなんだか癪だなあと思いながら、オレも眠りに落ちていった。