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ぴりぴりとお腹の下の、そのまた奥の奥の方が痺れるような感覚に私は身の毛をよじらせた。ベッドの中、小さく体を丸めてお腹を抱える傍らで、右手だけはぽちぽちとメール画面を作成する。友達に今日は学校に行けないと伝えるためだ。ボタンを押して、送信。画面はすぐに受信完了画面に切り替わる。ぴりぴりぴりぴり。なんで女ってだけで、こんな理不尽な思いをしなければいけないんだろう。女子ならきっとだれでも一度は思うだろうことを、私は頭の中で反芻する。ああ、も、痛い。だめ、ほんと無理だよ。しばらくすると携帯がちかちかと光って、メールが来たことを知らせる。薄く開けた瞳が画面を捉える。了解したということと、大丈夫?無理しないでねということがきらびやかな絵文字とともに書いてあった。大丈夫だよ、とまたぽちぽちと文章を作る。本当は全然、大丈夫なんかじゃないのに。思えばメールって、全然面白くもないのに(笑)とか付けちゃうし、悲しいのに楽しいふりだってできるし、結局一番嘘つきなツールなんじゃないの?って、たまに、思う。一番信用できないのって、もしかしてこいつなんじゃないのか。握りしめてもびくともしない携帯が、なんでかすごく恨めしい。

「あー、もう無理、ほんと無理…」

独り言をいったって痛みが引かないのに何度もうわごとのように呟く。さっき薬を飲んだから、少し寝てしまおう。生理痛の何がつらいって、我慢できないほどでもない痛みがじんじん続くときと、我慢できないほどの痛みが波のようにやってくるときがあることだ。なんでどっちかにできないのよ。しかもそれが選べないから困る。じんじんぴりぴり、お腹の中に何かを飼っているみたい。

生理中だから仕方ないって分かってるけど、こんなときはひどく心の中が不安定になる。世界中に私一人が取り残されるような気がして、もしかしたら世界中の人が私のことを嫌ってるような気がして、どうにかしたいけど結局なんにもできない自分にまた少し、嫌悪感。さっき大丈夫?と返信してきた友達だって、大丈夫の裏側で生理痛なんかで休むなんて、と思っているのかもしれない。受験生なのに甘えてるって、思っているのかもしれない。そんな変にネガティブなこと普段なら絶対に思わないのに、そんなことばかり考えてしまう。ひくひく動く子宮をもし破壊できたら、こんな不安に苛まれることない?苦しくない?それなら私はいくらでもこれを壊してしまうのに。そんなできもしないことを真剣に悩んでしまう程度には、ぐらぐらしてる。少し、眠ることにしよう。

目が覚めるとさっきから二時間くらい経過していて少し驚く。汗で背中に張り付くパジャマが気持ち悪い。おでこにも髪の毛が張り付いている。携帯の真っ暗な画面に映る自分の顔が余りに不細工で思わず顔を背けた。がしかし、ちかちかと点滅するものだから見ないわけにはいかない。この色は、マイスイートダーリン福井健介のものだ。どうやら着信があったらしく、すぐさまかけ直す。今だったら昼休みくらいだろうか?コール音の後すぐに聞きなれた声が聞こえた。

「けーんーすーけー!お腹痛いー」
「お前の友達から聞いた。腹痛とか自己管理なってねーんだよ」
「うるさいんですけどーつーか生理だバカヤロ−」
「…あー。…おう、…そうか…わりぃ」
「どんだけウブなのその反応…くそ―、健介にもこの痛みを分けてあげられれば」
「ふざけんなぜってー勘弁だわ」
「うわー痛い痛い痛い痛い、あ、これ無理だ、腰折れる」
「お前の腰は折れてるよ。お前がちゃんと人間ならな」
「うー…あー」
「な。まじ大丈夫?オレなまえん家行くけど」
「えー?やだよむりむり。顔むくんでるしパジャマだし髪ぼさぼさだし」
「あー?お前そんな不細工なの?」
「いやいやモノの例えですよアニキ」
「まあ普段とあんま変わんねー気もするけど、じゃあ遠慮しといてやるよ」
「おう、元気な時に会いたい。そして最初の聞き捨てならない、今度あったら殴る」
「それくらいの元気があるなら大丈夫だな」
「うるせー、かわいい彼女に向かってその狼藉、聞き捨てならんぞ」
「はは、お前混乱しすぎだって。参ってんの?いいから、黙って早く寝とけ。お腹冷やすなよ」
「わかってますー」

健介は優しい。口は悪いけど一言で言うといい彼氏だ。バスケ部内では身長低いってディスられてるときもあるけど私からすればちゃんと大きいし、頭もそこそこいいし気配りもできる。人が本気で嫌がることは絶対しない。それを声のトーンとか、そんな些細なことで感じ取ってくれる。踏み込み方が上手なんだ。間合いの取り方とか、距離感の掴み方とか、言葉にするならそんな感じのことを、上手にできる。あんまり他人に嫌われなさそうだなあと、付き合い始めた当初は思ったものだ。健介の声をきくと一気に心の中が健介だらけになって、ああそれてちょっとキモいな、ポニョかよって思うけど、なんだかすごく、会いたくなってしまう。

「会いたいなあ」
「は?」
「やっぱり会いたいよ、健介」

おう、じゃあ今から行くって迷いなく言われて、ぴっと電話が切れた。どうやらこの世界で私は独りじゃないらしい。今もじんじんぴりぴり痛いこの痛みを、この理不尽を、いつかもっとちゃんと愛せる日が来るのかなあなんて、ぼんやり思う。女の子でよかったなあって、苦しくいのはまっぴらごめんだけどやっぱりどっかで思えるのは君のおかげだよとか、そんなことを言ったら照れ屋で意地っ張りな私のポイントガードさんはきっと顔を真っ赤にしてうるせえって言うんだろうな。



ワタシノアナタ


(120720)