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ぴぴぴと目覚ましが鳴る音がした。
聞きなれた私のアラームではないそれ。私がアラームを設定している時間はもう少し遅いはずだから、なるほどこれは征十郎くんのなんだなあと理解する。それから、そういえばここは自分の家ではなかったということも。隣でくぐもったような声がしたのでうっすらと目を開けると、目の前には眉根を寄せて呻く征十郎くんがいた。どうやら寝起きはあんまりよくないらしい。いつもぴいんと気を張りつめている彼の、珍しく気の抜けたところを見ることができたことにため息のような笑みが零れた。

「…起きてたのか、なまえ」
「ううん、私もさっき起きたばっかりだよ」
「ああ…そうか、煩いな、目覚まし、どこだっけ」
「征十郎くん寝ぼけてるでしょ」
「そんなことはない…と、いいたいところだが、うん、少し疲れているかもしれないな」

ようやく手探りで目覚ましを見つけたのか、てっぺんのスイッチを押すとうるさかったアラームは突然止まった。一気に部屋がしいんとなる。征十郎くんがふああと、欠伸をする。存外男らしい欠伸だった。彼が寝ころびながらぐいいと背伸びをするのを私は黙って見ていた。彼の髪についた寝ぐせが、なんだか無防備でかわいかった。

「なあに?あんまり眠れなかった?」
「あ?ああ、まあ…そんなことはないけど」
「でも、さっき疲れてるって」
「…まあ、そうだな。好きな女が横に寝ていてぐーすか寝てられるほど僕は呑気じゃないかな」
「…」
「そんな僕を差し置いて爆睡していたなまえには敵わないけどね」
「…ごめんなさーい」
「すごく気持ちよさそうに寝ていたから、起こすのも憚られたよ」
「…征十郎くんはすぐに難しい日本語を使うね」
「そうかな?」
「うん。…でもこのベッド、寝心地がよくって」
「そうか?それならまた来ればいい」
「寝に?」
「…他のこともする?」

僕はそれでもいいけど。征十郎くんの他のこと、というその言葉から連想されるピンク色の妄想に、かああ、と自分の顔に熱が宿るのが分かった。そんな私に対して征十郎くんはにこにこと清純そうに笑っている。悪魔のほほえみだ、騙されてはいけない。シーツをくしゃりと握りしめると、その手を解かれ彼の手と絡められる。くすくす笑う声が聞こえた。ああ今、私きっとひどい顔をしている。

「あー、学校か。めんどくさいな」
「そうだねえ…」

そろそろ準備をしないと始業の時間に間に合わない。そう思いながらも、なんだか気怠い体は動くことを拒否していた。それは征十郎くんも同じみたいで、ぼんやり宙を見つめていた。天井の染みでも数えているのだろうかと思って私も上を見たけど、今の時代、天井に染みなんてあるはずもなかった。ただひたすらに白い壁紙とLEDの電灯があるだけだ。握る手のひらにぎゅうと力を込めてみる。「ねえ、征十郎くん」

「私は征十郎くんがいればほかに何もいらないよ」
「…そんなの決まってるじゃないか。なまえは馬鹿だな」

君とシーツに包まれて、も一度くすりと笑いあう。満足げに閉じられた双眸でふさふさと揺れる睫毛まで愛おしい。じゃあ今日は、このままふけるとするか。征十郎君が言う。不思議の国の猫みたいに、悪戯な微笑みを浮かべて。私はその言葉にもう一度小さくくすりと笑う。絡み合う指と指の隙間すらもどかしい。もっと、近くに、どうせなら、君の中まで侵入してしまいたい。そう思って君の胸元にぐりぐりと頭を押し付けて、カーテンから漏れる日差しを背中に浴びながら、ああ、このまま一緒に死んじゃえたらなあとか、思ったりして。まあ簡単に言うと、ねえ征十郎くん。私、今、君に内緒で世界の滅亡を願ってる。


「好きだよ、なまえ」
マイフェアレイディ


(120715)