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※全員割と最低なお話


なまえっちてさあ、馬鹿だよね


黄瀬くんの声はやけに凛として響いた。ガン、と乱暴に、周りにあった椅子の一つを蹴とばした。ガン、ガン、と何度も椅子を蹴りつける音と、黄瀬くんらしくない卑屈に笑う声だけがその場を支配している。そのたびに私は恐ろしくてギュッと目を瞑るのだ。彼の目を見ようにも、目を合わせれば今度こそ殴られるような気がして、結局黙ることしかできなかった。悪いのは全部、私だというのに。

「てかさあ、あれだよね。なまえっちって大人しい顔して、結構やるっスよね」
「…」
「オレのときも、そうやって黙ってるだけだったし。心の中で笑ってた?」
「…」
「ショーゴくんさあ、知ってると思うけど、もう新しい彼女いるっスよ」
「…」
「わけわかんねえ。ドMっスか、気持ち悪ぃ」
「…」
「黙ってねえで、なんか言えよ!!」

黄瀬くんの拳が、今度はおもむろに壁を殴った。力任せに、思い切り。こんな黄瀬くん、私は知らない。黄瀬くんはいつだって優しかった。私がどんなに落ち込んでも、いつも優しく励ましてくれた。私がうれしいとき、私以上に喜んでくれた。彼の告白を断ったときだって、黄瀬くんは笑いながら、ごめんね、とそう言った。はずだ。私は黄瀬くんの、何を見ていたのだろうか。獰猛なその瞳が金色に光る。
私は灰崎くんが好きだけど、彼にとって私はもう過去の女であるわけで、それ以上でもそれ以下でもなくて、だから、今更私が何か言ったって、何が変わるというのだろう。分かってる、そんなことは黄瀬くんだって分かってる。こんな話をしても、なんの肥やしにもならない。強いて言うならば私の無駄な、このどうしようもない思いが助長されるだけだというのに。

「なんで、だよ…なんで、っスか」
「…ごめんね」
「謝んなよ!」
「ごめんね、ごめんね、バカで、駄目で、ごめんね、黄瀬、くん」
「ふざけんなよ…!なんで、オレに、しねえんスか…っ」

ごめんね黄瀬くん、私、どんなにひどいことされても、やっぱり灰崎くんのことが好きで、どうしようもないくらい好きで。今だって、一分一秒ごとに、どんどん彼のことを好きになっていくのがわかる。灰崎くんが、好きなんだよ。いくら黄瀬くんが、壁を殴ってその拳を傷だらけにしても、私が黄瀬くんを傷つけても、それでも私は、灰崎くんのことが好きです。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

あなたのその、悲しいほど優しい手に全てをゆだねられたらどんなにいいだろう。そんなことを夢想する私はずるいかな。ずるいよね、でも。ごめんなさい、私は、

ソナチネの


本誌の黄瀬がおいしすぎて。
(120710)