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※兄妹設定

「なまえ、どうしたの?なんか落ち込んでる?」

よっこいしょ、と言って私の隣にお兄ちゃんが腰掛ける。窓から見える空は綺麗だ。時折星が瞬くのが分かる。。

「涼くん…」
「どうしたー?なんか暗いじゃん。兄ちゃんが聞いてやろう」
「べっつにー。…ただ、ちょっとこの前の模試の成績が悪くって」
「なーんだそんなこと!気にしなくていいって。そんなこと言ったってなまえは俺よりずーっと頭いいんだから」
「それは知ってます。でもさー、涼くんはバスケだってモデルだっていろいろできるじゃん。私にはこれしかないのにー」
「そんなことないって。なまえにはなまえのいいところがあるでしょ」
「でもー。…納得できないよ。努力不足だもん」
「オレはなまえのそういう、真面目なとこ?好きだけどなー」
「…そんなこと、ないし」

あーあ、またかわいくない言い方を。せっかく涼くんが慰めてくれようとしているのに。だけど、自分のいいところを認めるのって恥ずかしい。私は涼くんみたいには胸を張れないよ。卑屈になるのはいけないとわかりつつも、やっぱり兄に対するコンプレックスは拭い去れない。涼くんは無言で立ち上がり、部屋を出て行った。一人残された私は途端にとてつもない罪悪感と恐怖に苛まれる。どうしよう、呆れられたのかな。どうしよう、どうしよう、涼くんに嫌われたら、私。泣きそうになっていると涼くんは両手にグラスを持って戻ってきた。からんからんと歩くたびに氷が揺れる音がする。

「…カルピス?」
「そ。なまえ、確かこれ、好きっしょ」
「うん。…好き」

好きなの、涼くんのことが。そう思うけど、いつも思っているけど、とても口に出すことはできない。だって私とこの人は兄妹。正真正銘に血が繋がった、血を分けた、兄なのだから。できるだけはっきりと、強調するように好きだと繰り返す。カルピスそんなに好きだっけ?と涼くんが苦笑した。好きだよ、好き。好きなの。昔からもうずっと。好きなの、ねえ、お兄ちゃん。

「あーあ、たまにはしおらしい妹もかわいいなあ」
「…うっわ、ロリコンみたいキモッ」
「お前、元に戻るの早すぎ!」

隣で笑う涼くんから香るのは、私の髪から香るのと同じシャンプーの匂い。どうしようもなく、同じ匂い。それだけじゃない。服から香る柔軟剤の匂いも、毎日使ってる歯磨き粉の匂いも、全部おんなじ。
分かってる。だから私、これから先も多分ずっと、この人と他人にはなれない。

一時の幻影


黄瀬が家族の前だとどういう口調になるのかわからないという問題が浮き彫りになる話。 
(120710)