×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


「みょうじ、これが今日のお前の星座のラッキーアイテムなのだよ」
「あの…毎回毎回ありがたいんだけど、なんで私の星座知ってるの?」
「そんなことは自明なのだよ」
「ごめんそれ言い訳になってないです」
「さて、始業の鐘がなりそうだから教室に帰ることにするか」

緑間くんはそういってすたすたと私の教室から出て行った。なんなんですか、あの人。ここ一週間くらい毎日、朝礼前に私の教室に来てはラッキーアイテムがうんぬんかんぬん言いながら、人形やらクッキーやら残して去っていく。突然のことすぎて最初の一日目は言葉を返すことができなかったものの、一週間目ともなれば呆れながら質問までできるようになった。慣れって怖い。

「緑間くんって不思議な雰囲気醸し出してたけど、やっぱり不思議な人なんだね」
「ちょっと、ほんと勘弁してよ。私だって困ってるんだからね」
「いいじゃないかっこいいし、なんてったって身長が高い!」
「それあんたが身長フェチなだけでしょ…」
「バスケ部でしょ?どこのポジションなんだろうなあ」
「さあ、どうだろうね」

友人は夢見るような顔でそういった。私はというと毎日毎日プレゼントとも言えないような品を渡されて(一昨日はなんと金ぴかに輝くルアーだった。あの、魚を釣るやつだ)、周りの好奇の目に晒されて、うんざりしてるとまでは言わないまでも少々、なんというかまあ、迷惑、している。

「緑間くんてさあ、なんで毎日何かしら持って来たりするんだろう」
「何言ってんの?そんなのなまえのこと好きだからに決まってんじゃん」

ですよね。でも、それって普通の人相手にだから言えることであって、緑間くんを対象にした場合の評価には当てはめてはいけない気がするのだ。うーん、不思議な人だ。

「ていうかどうするの、もらったもの」
「一応、家にある」
「…返すの?」
「うーん…とりあえず、返すつもりでいるけど」
「タイミング難しいわねえ」
「だよねえ」

なんとなく、こちらの気持ちに察してくれたりするほど鋭くはない気がした。勉強はきっとできるのだろうけど、人の気持ちには疎いタイプなのだろうなあと想像できる。なんてったって、緑間くんの瞳はいつだって真っ直ぐだから。

×××

ときところかわって放課後。私は廊下で緑間くんと遭遇した。

「緑間くん、あの」
「ああ、みょうじか。今日も暑いな」
「うん、そうだね…じゃなくて!あの、いつもくれるあれ、あの、返したいんだけど」
「ラッキーアイテムか?」
「うん、そう、それ。私、もらう義理ないし…」
「いいや、受け取るつもりはないのだよ」
「ええ、そんな。大体なんでいつもいろいろくれるの?」
「決まってるだろう」
「わかんないよ。私、馬鹿だから」
「餌付けだ」
「は?」
「そうだ。今度の日曜、試合があるのだよ」
「どういうことなの…ていうか、そうなの?」
「ああ。会場はここだからな、みょうじも見に来ればいい」
「え?ちょっと、あの?さっきの質問に答えてないんですけど、緑間くん?」
「じゃあ、オレは部活にいくのだよ」
「ちょっとお…緑間くーん!」

緑間くんはすたすたと廊下を歩いていった。意味が分かりません。私に理解力がないだけでしょうか。いやそんなことはないはず。私は去っていく緑間くんの後ろ姿を見つめながらその場に立ち尽くすことしかできなかった。

×××

「おお、みょうじ。なんでこんなとこいんの?」
「高尾くん…緑間くんに用があって」
「え、真ちゃん?ふーん、まあいいけど、楽しんでけよー。オレ、活躍しちゃうからよ!」
「うん、楽しみにしてるね」
「惚れるなよ!」
「安心して。それはない」

同じ中学だった高尾くんは私を見つけたらしく、走り寄ってきた。いつものようにニヤニヤしながら軽口を叩いて私の元を去っていく。きっと高尾君は知らないんだ。なんてったって彼はいつも、遅刻ギリギリに来るのだから。今日こそは返さなきゃと思って鞄の中に突っ込んできた贈り物の数々が、私をなんとか奮い立たせる。そうだ、私はこれを返すためにわざわざ休日の学校に来たのだから。スカートのポケットに手を突っ込んで、緑間くんのくれたルアーをぎゅっと握った。今日こそ。今日こそ返す。

試合が始まった。バスケなんてちゃんと見たことがないけれど、どうやらうちの高校は結構強いらしい。見てわかるほど、相手チームとの差は歴然だった。しかも、バスケって結構おもしろい。手に汗を握りながら見ていると、いつのまにか最初の10分が終わっていた。恐るべしバスケットボール。時間が経つのすら忘れさせるなんて。休憩を挟んですぐに次の10分が始まる。始まってすぐに、スパンッ、と一際鋭い音がして、ネットをボールがすり抜けていった。緑間くんの放ったシュートが決まったのだ。点数のところが27から30に変わった。三点入るのか。ていうか今まで緑間くんが決めてたのももしかして三点入ってたのだろうか。何しろ試合の展開が早い上に、点数表示を見ていなかったので分からないのだが、まあおそらくそうなのだろう。コートの中に視線を戻すと緑間くんが汗でてろてろ光る腕でおでこを拭った。その拍子に眼鏡がずれる。クールな顔してちょっと馬鹿なのかなと思った。高尾くんが走りながら緑間くんを小突いている。彼らしい激励の仕方だなと思った。緑間くんの口元が、小さく弧を描いた。うわあ、緑間くんって、笑うんだ。

…あれ。なんだこれ。なんだこれなんだこれなんだこれ。ちょっと待て、どういうことだ。心臓が早い。頬が熱い。私、なんだか今、あの汗まみれの腕に包まれたいとか、思っちゃってる。緑間くんがくれた、金ぴかのルアーを握りしめた。緑間くんって、もしかして想像以上にしたたか?…私、どうやら釣られちゃったみたいです。



落とし























HAPPY BIRTHDAY 緑間!
(120707)