「ちょっと涼太、起きろー」 「…へ?」 「もう、こんなところで寝たら風邪ひいちゃうよ」 ぱちりと目を開けるとなまえっちがオレの顔が視界いっぱいに広がっていた。眉根を寄せて、オレを見つめている。その後ろには太陽の光が見えた。オレの顔にかかる彼女の髪からは、女の子特有のいい匂いがする。どうして女の子ってこんなにいい匂いがするんだろうって、それは全世界の男子の疑問なんじゃないだろうか。 「げっ、オレ、もしかして寝ちゃってた?」 「もしかしなくてもねー」 「ごっめんなまえっちー」 「はいはい、たいそう綺麗なお顔でしたこと!」 「ちょっと!からかわないでほしいっス」 ニコニコとなまえっちは笑っていた。まさか、こんな、学校の屋上なんかでうたたねしてしまうとは思わなかった。確か二人でご飯を食べていたはずなのだけれど、食べ終わって、他愛無い話をして、…そっから記憶が曖昧だ。 「なんで寝ちゃったの?目を離した隙に、一瞬だったよー」 「あー?…よくわかんないっス」 「なによそれー」 「でもなんか…なんかよくわかんないけどー、毎日バスケできて、勝ちたい相手なんかも見つかって、今日あったけーし、そんで隣になまえっちがいて、笑ってて、あーオレ、なんか幸せかもーとか思ったら、なんか」 急に眠気が、と言おうと思ってはっとする。…オレ、すげ恥ずかしいこと言ってるかも。覗き込むなまえっちの顔を見ないようにするために右腕で視界を覆った。うわああ思い出すと、急に、なんつーかすげー恥ずかしいっス! 「涼太」 「な、なんスか」 彼女がオレの名前を呼ぶ。柔らかい声が鼓膜をいっぱいにした。オレは未だに彼女を見れない。 「…ちゅー」 「…、へ?」 「奪っちゃったー、なんちゃって」 唇に、ふんわり柔らかい感覚がして、間髪入れずにオレはバッと腕をどけて、目を開ける。え、え、ええええ?すでになまえっちはオレから顔を離していた。慌ててそのまま体を起こす。なまえっちはその間に立ち上がってスカートをぱんぱんと掃いオレに背を向ける。後ろ手でひらひらと手を振った。 「捕まる前に逃ーげよっと!」 「え、ちょ、なまえっち今なにを…!」 「じゃーねー!」 それだけ言うと、そのまま屋上を出て行った。文字通り、言い逃げされた。オレは立ち上がれず、腕だけを伸ばしたけど、彼女がいなくなってしまってはそれも虚しくてすぐに下ろした。追いかけることもできず、そのまま下ろした手でくしゃくしゃと自分の髪を掻きまわした。やばいオレ、今絶対、顔赤い…!だけどなまえっちも!耳赤いの!バレバレっスからね! ああ、好きだなあ。漠然とそう思った。好きだなあ、好きだなあ、好きだ。頭の裏でその言葉が乱反射。オレはまだ子供で、君もまだ子供で、愛してるなんて恥ずかしくって言えないから、好きだって言う代わりにそう悪態つくくらい、君だってきっと許してくれるはず。ね、そうでしょなまえっち? 君の小宇宙に 墜落 きみのこすもについらく。 (120704) |