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ぴんぽーん、と玄関からチャイムの音が聞こえた。春休みだから学校もない、つまり家でごろごろできる幸せな期間だ。ついでにお菓子も食べ放題。最高。さてチャイムと言えば、お母さんあたりが出ると思ったけれどそういえば今日誰もいないって言ってたっけ。のそのそとベッドから起き上がって玄関まで出た。扉を開けるとそこには珍しいお客さんがいた。化粧を施して髪型もちんちくりんじゃない、それは、見慣れない綺麗な女の子だった。

「…なまえ?」
「こんにちは、敦くん」

ちょっと上がってもいいかな?と申し訳なさそうに言った。オレが聞いてもいないのに、家の鍵を忘れちゃって入れないの、と言った。その顔がなんだか少し、なんというか悲しそうな気もした。なまえはオレのお隣さんで、まあ幼馴染?とかいうやつだ。正直あんまり仲良くないけど。小学生の時は同じだったけど、中学だって今は別々だ。オレは私立に進学したけど、なまえは普通の公立に行った。オレの後ろを、なまえはのろのろとついてくる。オレの部屋に入るとなまえは適当なところに座った。オレはさっきと変わらずベッドに寝転ぶ。あー、今の状況、黄瀬ちんなんかだったら羨ましいとか言うんだろうなー。黄瀬ちん最近なんか盛ってるし。

「敦くんの部屋に入るの久しぶりだな」
「んー、そうかもね」

まあ?オレにはどうでもいいことだったりするし、そんなことより新しいまいう棒のフレ―バーのほうが気になったりしている。ていうか今日練習って何時から?あれー、誰に確認すればいいのかな、とりあえず赤ちんにメールしとくか。あー、メールめんどくさいな、なまえが帰ったら電話しよ。

「ちっちゃいころはよく遊んだよね」
「そうだっけ?覚えてねー」
「ひどいなあ…ていうか私、上がってもよかった?敦くん、彼女とかいたりする?」
「ううん、いないよ。なまえは?」
「いるよ、一個上の、先輩」
「へー、そうなんだ」
「今日デートだったんだ」
「…帰ってくるの早くね?」
「…でもね、なんかね、もうダメかも」
「んー?」
「…もう、別れるかもしんない」
「ふうん」
「今日も、すっぽかされちゃって」
「…ふうん」
「なーんて、まあ、敦くんに言っても仕方ないんだけど!」

本当にそれだ。そんなこと言われたってオレは気の利いたこととか言えないし、その前にまず興味がない。なまえは貼り付けたような笑みを浮かべた。声だけが空回りしているみたいだ。ベッドに寝転がりながら適当に雑誌を開く。なまえは所在なさそうな顔をしていた。困っているのだろうか。

「まあ、泣いとけばいいんじゃない」
「…敦くん?」
「悲しいときはー、多分泣いた方がいいし。そんな顔したって無理して笑ってるのわかっちゃうし」

雑誌を見ながらそう言って、ふいとなまえの顔を見ると、なまえの表情は固まっていた。そして、引きつったような笑みが、みるみる内に泣き顔にかわってく。なんてぐしゃぐしゃなんだ。さっきまでの綺麗な顔はどこにいったのだろう。まるで子供みたいに泣いている。まあいいかと思って雑誌に目を戻そうとしているのに、オレの眼球はなまえを離そうとしてくれない。肩を丸めてどんどん小さくなっていく。しゃくりあげる声が、さっきより少し大きくなった。なんでだろう、腕がむずむずする。今のなまえは小さくて、なんだか抱きしめてやらなきゃいけないような気がする。なまえの泣き顔なんて多分何度も見ているはずなのに、おかしい。

「やっぱ、泣かないでよ、なまえ」

ベッドからのそりと立ち上がって、なまえを抱き寄せて、その目元から零れ落ちる涙をべろりと舐めとった。なまえの涙はなんでか蜂蜜の味がして、でもオレは涙の成分が塩分で、しょっぱいことを当然知っていて、だから。…だから?

「ごめん、ねえ、敦、くん…っ」
「ねえなまえ、もう、泣かないで」

オレは自分が馬鹿なつもりなんてなくて、愚かなつもりなんてなくて、どんなに気が抜けていると言われても自分はしっかりしていることを知っていた。そういうつもりでいた。だけど、それは少し考え直した方がいいのかもしれない。だって、こんなの間抜けすぎるじゃん。ていうか、ズルじゃん。もう随分会ってないし、つーかそんなに仲良くねーし。…ああはいはい、認めたくはないのだけれど、なまえの涙に蜂蜜の味を感じたときようやく、オレは恋を、そう恋ってやつをしていたんだなあと、思い知ったのでした、まる。


Love is blind?




春が芽吹く音は、恋が終わる音。
(120627)