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「何してんだよ!」

「…え?……涼太?」



アンチロマンチックド 17



怒声が聞こえた。ぎゅっと閉じた目をゆっくり開くと、登場人物が一人増えていた。暗がりの中でうすぼんやり見えたその金髪はどうやら黄瀬涼太のものだったらしい。ひいっと今度はおじさんが息をのむ声が聞こえた。「なまえさん大丈夫っスか!!」涼太がおじさんを掴んだ手を離して私の方に注意を逸らした隙におじさんはよろよろと、しかしすごいスピードで走っていってしまった。

「あんの野郎、逃がすか…!」

それを見た途端涼太は殺気立った声を出しておじさんを追いかけようと走り出す。走り出して、そして、盛大に転んだ。気持ちいいほどの転びっぷりに私の方が息を飲む。その間におじさんは角を曲がったのか、見えなくなっていた。

「…なにしてんの涼太」
「すいませんちょっと待ってほしいっスついでに記憶からも消しといてください」
「…」
「…いってえ」
「…笑ってもいい?」
「ひどいっスよ!」

馬のような四つん這いの態勢から、開き直ったのか涼太は今度はどっかり道路に鎮座した。堂々と真ん中にあぐらをかいているけれどここは公道だ。そんなことも気にせず手のひらの傷や足首なんかを確認している。私は少し遠目からそれを見つめる。いざとなったら他人のふりをして逃げようと思ったからだ。


「涼太さあ…なんで私のこと避けてたの?」
「…」
「言わないとわかんないよ」
「…なまえさんが…オレのこと好きじゃないと思ったから」
「は?」
「だって前、オレ聞いたじゃん、なまえさんにとってオレって何?ってさ。あのときなまえさん、きょとんとして彼氏だからとか言うんスもん」
「…ちょっと待ってよ」

意味が分からん。

「だぁかぁら!彼氏は誰でもなれるでしょ!それこそ好きじゃなくても作れるし!ただでさえなまえさん、好きとか言ってくんねーし、オレの方が年下だし、オレ、ガキだし。遊びに付き合ってくれるくらいの感覚なのかなって思ったら、」

ごにょごにょと萎れていくように、声が小さくなる。涼太は私からまた目を逸らした。

「え、なに。聞こえない」
「〜〜ッ、不安だったんスよ!」

悪いかとでも言うように涼太はそう吐き捨てた。

「涼太ぁ…あんたって…」
「な、なんすスか」
「…馬鹿でしょ?」
「馬鹿じゃねーし!」

そうやっていつも馬鹿にして!とぶつぶつゴネている少年の顔は伏せられていてやっぱりよく見えない。確かめるように、私はゆっくり涼太に近づいた。こつこつとローファーの音が夜道に響く。涼太の目の前まで辿り着くとスカートを両手でまとめて腰を下ろした。ようやく、涼太と目の高さが合う。だけど、涼太はこっちを見てくれない。

「ばーか…私が好きでもない男を彼氏にするわけないでしょ」
「でも…!」
「なんでそんな早とちりすんの、馬鹿涼太」
「…なまえさん、告られてたじゃん。そんとき、オレの顔、好きじゃないって」
「あんったどんだけ自分の顔に自信あんのよ。世界中の女が全員あんたの顔好きだと思ったら大間違いよ」
「うっ…そんなんわかってるっスよ!ただ、オレが一番誇れるの、これくらいだし」
「大体私、あんたのこと顔で好きになったんじゃないもん」
「…そうなんスか」
「どんだけ私のことメンクイだと思ってんのあんた…」

はあ、とため息が出た。そのため息に涼太はでかい図体を幾分か縮こまらせた。ますます視線が合わない。片手を伸ばして、涼太の前髪をかきあげる。やっと、目があった。

「…もうオレのこと、めんどくさいスか?」
「うん、まあ、めんどくさいね」
「…」
「だけど、好きだから一緒にいてあげる」
「…は?」
「涼太、」


「好きだよ」


ああ逆光で良かったと心底思った夏の夜のおはなし。涼太がやたら真っ赤な顔をしていて、あんたは女子かと思ったのはまあ、秘密にしておいてやろう。