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「あ、みょうじさんが隣なんスね!」
「…よろしく、黄瀬くん」

黄瀬くんは手にたくさんの教材を抱えて隣の席の椅子を引いた。適当に机の中に教材を突っ込んでいた。私はというと突然の黄瀬くんの登場に頭を抱えたい気持ちだった。迂闊だった。黄瀬くんと反対側の隣の席が友達だったからそちらに注意ばかり払っていた。黒板に適当に書かれた座席表にはちゃんと「みょうじ」と「黄瀬」が並んでいるではないか。


「あ、黄瀬がなまえの隣なんだー」
「よろしくっス」
「その子内向的だから、優しくしてやってねー」
「了解!みょうじさん、よろしく!」
「うん、よ、よろしく…」
「あはは、本当に声小さいっスね!」
「あ、ごめんね…」
「いいじゃん、可愛らしくて」
「うっわ、黄瀬キザだなー」
「なんスか、別にいいじゃん!」

黄瀬くんが拗ねたような顔をして、友達がからからと笑う。私は所在なさ気に縮こまることしかできなかった。黄瀬くんはころころと表情が変わる。見ていて飽きないなあと思った。それから、こういうところが他人の目を引くのかもしれないなあとぼんやりと思った。と同時に、さっきの彼の言葉がリフレインする。可愛いなんて言葉、未だかつて同い年の男の子に言われたことあっただろうか。彼が言うからなんだかドラマの中の台詞みたいだなあ。どきどきと、心臓が鳴る音がする。

「あ、じゃあさ、みょうじさん、オレ、仲良くなるためにあだ名で呼んでいい?」
「え!あだ名…?」
「そ!友好の意味を込めてさ、みょうじっちって呼ぶっス!」
「う、うん。いいよ」
「みょうじっちは?」
「えーと、黄瀬くん、で、いいかな」
「えー、変わんなくないスか、それ?」

まあいいっスけど、と黄瀬くんはまた笑った。本当によく笑う人だ。その笑顔はいろんな人に幸せを与えているのだろう。つられてこちらまで笑顔になってしまうのだからすごい。黄瀬くんと話しているとあっという間に時間が経ってしまうのだ。いつのまにか終礼は担任の話も最後のほうにさしかかり、すぐに日直が号令をかけた。さようならーとバラバラに間延びした約40人の声が教室にこだまする。

「じゃあオレ、部活行くっス」
「そっか、部活、頑張ってね」
「ありがと!みょうじっち、バイバイ!」
「うん、…また明日」

最後に特上の笑顔を私に放り投げて、彼は慌ただしく教室を出て行った。頬が熱い。黄瀬くんと、こんなに長い時間話したのは初めてだ。彼はやっぱりスーパースターだなあと改めて思う。そして、私に与えられた役割はせいぜい村人A。うーん、仕方ないことだけれど現実は残酷だなあ。気のせいかもしれないけれど、さっき黄瀬くんが立っていたところがやけに眩しい。
キラキラしている。幼稚園児みたいな表現だけど彼を一言で表せば、やっぱりこれがぴったりだ。