超恋愛思考型のミナコちゃんから言わせれば、彼氏と長続きするためには三つの「ない」が必要らしい。一つ目、「期待しない」二つ目、「気にしない」、三つ目「諦めない」。このうち一つ目と三つ目はどう考えても矛盾しているような気がするのだが、彼女から言わせるとそこのアンバイが重要らしい。塩梅ね、塩梅。きっと彼女の発音から察するに彼女はその漢字を知らない。つまり私たちは彼氏が私にどんな利益をもたらしてくれるか「期待してはいけない」し、彼氏がどこでどのように交友関係を築こうが何をしようか「気にしてはいけない」し、しかしその上で自分のデートのときの振る舞いやら恰好やら下着の選定まで、ギリギリのギリギリまでより良い状態でいられるよう「諦めてはいけない」そうだ。まあ穴があるような気がしてならない理論だが所詮素人が作ったものだ。しかも頷けるところは大いにある。とどのつまり、そういう対象のいない私にはまったく関係のない話であるということが絶対の真理だということはよくわかった。 「という話をね、聞いたんだけど緑間、どう思う?」 「俺には関係ないのだよ」 「右に同じなのだよ」 「真似をするな。ちなみにオレはお前の左にいるのだよ」 「間違ったのだよ」 「…みょうじ、殴っていいか?」 「やめてよ真ちゃん。真ちゃんなんかに殴られたら私死んじゃう。360度回転しちゃう」 「それは死んでないのだよ…」 「おー真ちゃん、みょうじ!何話してんのー?」 「男女交際における期間無期限延長の条件についての理論なのだよ」 「はっは!相変わらずみょうじ意味わかんねーな!」 「それより真似を止めるのだよ」 「はーいごめんなさーい」 ガタンガタンと椅子を引いて高尾が私の目の前を陣取る。緑間が眼鏡を取って眼鏡拭きでゴシゴシ吹いている横で、私はというと期間限定のちょっと割高のポッキー(結構ざくざくしているので挟みやすい)を鼻と口の隙間に挟んでうにうにと動かせるかという実験に移っていた。「うわ、みょうじの顔まじでキモい!」と高尾が吹き出し「なに!?み、見えないのだよ!」とか言って緑間が慌てて眼鏡をかけた。「ふっふーん残念でした。もうしませーん」「くそ…っ!タッチの差だったのだよ…!」「期間限定なのだよ」「ぶはは!真ちゃんドンマイ…!」高尾が腹を抱えて笑っている。 「あーあ、五時間目めんどくさいや」 「オレもう既に眠いんだけど。次の時間なんだっけ?」 「ライティングなのだよ」 「あーこれ寝るパターンだわ。あの先生授業する気ねーもんな」 「あ!ね!高尾!この前見たいって言ってた映画って今日までじゃない?」 「ええっマジかよ!」 「…なんの話だ」 「…行っちゃいます?」「…行っちゃいますか!」 「お、お前らもしかしてサボるつもりなのか?」 「うん、そのつもり」 「そうと決まればみょうじ、早く行こうぜ!」 「ぶ、部活はどうするのだよ!」 「だーから、部活の時間までに帰ってくるんだよ、あ、真ちゃんも行く?」 「行くわけないのだよ!」 「そっかー残念。じゃあ、フォローよろしくね真ちゃん」 「よろしく頼むぜ真ちゃん」 「真面目に勉学に勤しむんだよ真ちゃん」 「練習のときあらすじ教えてあげっからさ」 「…ちょっと待て!仕方ない、お前らだけじゃ不安だからオレも行くのだよ…!」 「素直じゃないやつ!」 「みょうじ、これがツンデレってやつなのだよ」 「高尾!」 ミナコちゃんごめんなさいね、三つの条件なんてあてはめなくても私、こいつらとはずっと続いていける気がするし、今のままで割と人生順調っぽい。そう思いながら私たちはお互いを押しのけるように教室を飛び出した。三人分の上履きが地面を蹴る音がしている。 昇華 す る 真 昼 視界はクリア、黄色い風が吹いている。 仲間外れにされるのは嫌な緑間。 (120617) |