見ていてもどかしいのはドラマの中だけで十分だと思うのだが、現実で、それも目の前で起きているとどうもむず痒くてならない。


「くっそ〜…なんで杏ちゃんはあんなヘタレが良いんだよ」
「そういうけどさ、自分だって対して変わらないくせに人のことだと勝手に言える身分はほんと良いよね…それに付き合わされるこっちの身にもなってほしいよ……」
「おまっ、聞こえてるんだよ!!!!ぶつぶつ言ってても!!!!」


二人とも落ち着け。
そう騒いでは……


「あー、騒ぐせいで今日も行っちゃった……」
「俺だけのせいじゃねぇだろうが!!」


しばらく前に気づいたのだが杏が視線で追っている男子生徒が一人いた。
パッとしない容姿……といってはなんだが、柔らかい風貌にいまどきの少年といった感じでチャラけた派手さはないが、普通に良い生徒なんだとは思う。
よくよく見れば相手も杏の方に視線を時折向けており、見ているうちに感づくものがあったが、もどかしい。
初めのうちは杏に確認を取ることもせず、恋人同士になるかもしれない二人を見守っていたが、直に接触を計ってくるだろうという頃合いになっても相手が動かない。
杏も少なからず想っている相手が自分に好意を寄せてくれているのを感づいたため、積極的に近寄っていったりしてはいるが……相手がどうも、その…かなり奥手らしく一月経ってようやく会話が続くようになったというレベル。
だが、杏があまり近づいても顔を赤面させて逃げてしまうという有様。
杏は俺たちと共にいることが多いため、どうしても今までの経緯というかそれらを目の当たりにすることが多いのだが、やはりもどかしい。
一度捕まえて問い詰めるべきかとも思ったが、そんなことをしてしまえば相手が怖がってしまうと杏にこっぴどく叱られたため、もどかしくも見守ることしか出来ない。

そう思いながらもしばらく見守っていることしか出来なかったある日――


「……あ、なんか手紙持ってる……ラブレター?自分でいえないからついに手紙に書いてきたってわけ。ふぅん、行動力あったんだ……でも、あの様子だと」
「ちょ、少し黙ってろ!うるさくてあっちの様子が分かんないだろ!」
「……そっちがうるさい」


二人とも……気になるのは分かるが、そう騒いでいては杏にまた叱られるぞ。


「た、橘さん、こ、これ……」
「わ、たしに?」
「うん、2-Aの水島から」
「え?」

震える手で差し出されたラブレターであろう手紙を嬉しそうに受け取った杏が固まった。
ついでに静かになった二人に徐に視線を移すと項垂れていた。
俺も思わずそれにならいたいぐらいだ。他人……しかも恋敵の中継ぎをしてどうするんだ、お前は……。


「っ、ふ、ふざけないでよ!」
「た、たたた橘さん!?」
「なんで、なんで人のラブレターを貴方が持ってくるわけ!?どうして!!?」
「ま、お、おち、落ちついて!」
「落ち着いて!じゃないでしょ?私の勘違いだったの!?私だけが好きで、同じだと思って……」


顔を真っ赤にして怒鳴り散らしていた杏は、言葉を最後まで言い切ることなく目に涙を浮かべてうつむいてしまった。
珍しく取り乱した様子を見せているが、今まで近づこうと努力してきた結果がこれでは……。



「お、れだって、好きだよ!橘さんが好き、だって!でも、断れなくて、俺なんかより、ラブレター、渡してくれって言ってきたヤツの方が、…でも、俺の方が好きなのにっ、でも、橘さん可愛いから、俺なんかよりっ」
「っ、バカぁ!私が好きなのは貴方だって言ってるでしょ!?」
「ゴメンっ、橘さん、ゴメン……やっぱ、それ、捨てて、俺だって好きだ!!!」


さすがに遣る瀬無くなり一歩踏み出そうとしたところで、あれほど杏の前に立つと緊張していた少年が杏の大声に負けないぐらいに、告白した。
めでたく妹に彼氏が出来た瞬間ではあるが…素直に祝福できないこの気持ちは如何なるものか。

…お前ら、ここ……テニスコートでもなく、校門の前なんだが、周り見えているのか?いや、見えてはいまい。

結ばれた二人に周りの生徒が祭のようなノリで囃し立てながらも祝福の声がかけられているのが……なんというか幸いだった。



これ・・・渡してって頼まれたからさ



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