※「また来てくれますか」の続編



最近また、沖田さんの様子がおかしい気がする。

仕事をサボったり、団子屋やファミレスでだらだら居座ったり、川原で昼寝してたり、神楽ちゃんと喧嘩してたり、土方さんにいたずらしてたり、土方さんに怒られたり…という日課(なのか分からないけど)をやめてしまったみたい。

それどころか、姿を見かけることすらなくなった。

せっかく、また家に来てくれるようになったというのに、ここ最近また来てくれなくなった。
このまえと違って姿すら見かけないから、つい遠回りして屯所の近くまでいってしまう。そうなんです、さみしくてさみしくてたまらないんです。








………また、来てしまった。

買い物にいこうとしていたら、やっぱり足は屯所に向かっていて。立ち止まってきらきらと輝く空を見上げる。
いつも近くまでしか行かないのだけれど、今日はなんだかもっと近づいてみたくなる。ゆっくりと歩いて門の前に立つ。立派な、建物。沖田さんは毎日ここで生活しているのか。……って、わたし変態みたい。

さすがに中まで入らないけれど、入らなくてもわかる。わたしの質素な部屋なんかとは、比べものにならないものがここにはある。具体的に何なのかは分からないけど。大きくて、荒くて、小さくて、繊細なものが。

いつまでもここにいたら不審に思われるだろう。ふうっとため息をはいたあと、背を向けて歩きだす。



「隊長に会いにきたの?」



急に後ろから声が聞こえて、思わず立ち止まってふりかえる。門のまえで山崎さんがにこにこ立っていた。いつのまに…?さすが山崎さんです。




「隊長なら部屋にいるけど、呼んでこようか?」

「いや、…いいです」

「いいの?」

「近くまで来たから寄ってみただけですから」

「近くまで来る用ってなに?しかも毎日」




わたしが何も言えなくなったから、山崎さんはさっきと違う笑みを浮かべる。にこにこじゃなくてにやにや。この笑みはぜんぶばれてるってことだろう。さすが山崎さんです。本日二回目。



「最近、見かけないからちょっと心配になっただけです」

「あー…最近、まじめに仕事してたみたいでさ。あれだけ嫌がってた書類整理も急にやりだしたり」

「そうみたいですね。最近サボってるところ、見かけないから」

「隊長が最近がんばってた理由、知りたい?」

「理由?」

「今日、1日非番にしてもらうためなんだって」

「今日、お休みなんですか」

「そう。だって今日、隊長の誕生日だから」



誕生日、か。お休みにするためにがんばってたから、最近見かけなかったのか。それにしても、誕生日をお休みにしたいなんて、かわいいなあ。本人に言ったら怒られちゃうかも。




「山崎さん。わたしが来たこと、沖田さんには言わないでください」

「どうして?」

「沖田さんの、邪魔をしたくないんです」




せっかくお休みにするためにがんばったのに、その邪魔をしたくない。今日だけじゃなくて、いつだって彼の邪魔はしたくない。

沖田さんには、わたしの部屋だけじゃなくて、もっともっといっぱい居場所がある。彼を独り占めしたいとは思わない(だってどの場所にいてもきらきらしてるから)




「なまえちゃんはもっとわがままになってもいいと思うけど…」

「わたしがわがままになったって、沖田さんには関係ないでしょう?」




山崎さんの表情から腑に落ちていないことがわかる。でも、わたしは間違ってないはず。




「このまえと言ってることが違いやすぜ」




聞き慣れた声が耳に溶ける。とくん、心臓が大きく音をたてた気がした。




「沖田さん、」

「やっぱり、あんたにとって俺は関係ないやつなんですかィ」




門の陰から出てきた沖田さんは、また不機嫌そうで。ああ、せっかく今日お誕生日なのに。

わたしは何も言えないまま、目を合わせるだけ。どうしていつも沖田さんを前にすると、うまく言葉を伝えられないのだろう。




「じゃあ、…失礼しますね」




山崎さんが不安げに去っていった。ちょっと、あなたのせいですよ。なんて心のなかで八つ当たり。




「あれは、違う話といいますか、なんていいますか、」

「何が?俺とは関係ないって言ってたじゃねえか」

「だから、関係ないわけじゃなくて、でもこんなこと言ったって、沖田さんは変わらないだろうなって思うだけで、わたしは、」




話がめちゃくちゃで、ちゃんと文をつくれない。さらに沖田さんの目力におされて言葉につまる。視線が痛いです。ああもう、はっきり言ってしまいたい。言ってしまえば伝わる。でも伝わってあとが、こわい。




「わたしは、」




言おう、言わなきゃ。ずっとこのままでいるなら、さっさと終わらせてしまったほうがいい。そしてすぐ去ればいい。結果的に迷惑をかけてしまうことになるだろうけど、そこは本当にごめんなさい。それでもどうしてもあなたに言いたいことがあります。




「沖田さんがいないと、さみしいんです」




あなたがわたしのとなりにいてほしい、そんなことは言わない。でも、ほかの場所できらきらしてるあなたを見ていたいのです。





「わたしは、沖田さんがすきです」





思わずぽろりとこぼれた言うはずのない言葉。数歩はなれたところにいる沖田さんが目を見開くのがわかった。




「……」

「………」




……………とんでもないこと言ってしまったようです。こんなこと言ってしまえば、もう気まずすぎて会えないじゃないか。




「…それ、マジですかィ」

「えっと、…マジ、ですかね?」

「……ふーん」

「……」

「…」

「あの、言うつもりはなかったんですけど、えっと、ごめんなさい帰りますねさようなら」

「待て待て待て待て」




沖田さんに背を向けてすぐに髪をひっぱられる。正直、すごく痛いです。




「俺のことがすきなら言うこと聞きな」




沖田さんの言葉を聞いて、恥ずかしいことを言ってしまったと再確認。つかまれたままの髪をまたひっぱられる。そのまま倒れるはずか背中と肩には何か支えが。支え?ええ、わかってます、沖田さんです。どくん、さっきよりも大きく心臓が鳴る。息をするのが苦しい。




「……」

「………」

「なまえ、」

「…は、はい」

「今日、」

「は、い」

「家に泊まらせろィ」

「え?」

「山崎の話聞いただろィ」

「お誕生日の話、ですか」

「そう、それ」

「せっかくのお誕生日なのに、わたしの家なんかいて、いいんですか?」




沖田さんがうなずいたのが、背中ごしにわかる。なんで、わたしの家?それに、なんでこの距離?彼の行動と言動はいつも分からない。だけど、今は特に分からない。




「えっと、真撰組のみなさんがお祝い、してくれるんじゃないんですか」

「昨日、七夕でまとめて宴会しやした」

「ごめんなさい。プレゼント、ないんですけど」

「さっきもらったんで間に合ってまさァ」

「さっき?」




態勢は変わらず、頭を回転させる。もちろんうまく考えられるわけがない。

でもやっぱり、なんにもあげてません。迷惑しかかけてません。というか、告白されたひとの家に泊まることは、気まずいことじゃないのだろうか。

両肩にのっていた手が離れて、背中のぬくもりも離れていく。これで、ちゃんと頭が回るようになるかもしれない。

……と思っていたらぐるんと体を回されて沖田さんと向き合う。え、さっきと変わらないくらい恥ずかしいんですけど。




「プレゼント、いっぱいもらいやしたぜ」

「いっぱいって、わたし、ひとつも、あげてません」

「いや、もらいやした」

「いや、だから、何を、」

「分からねぇなら教えてやらァ。ひとつめー、"沖田さんがいないと、さみしいんです"」

「…!」

「ふたつめー、そのときの泣きそうな顔。みっつめー"わたしは、沖田さんがすきです"」

「…ちょっと、やめてくれますか」

「あ、よっつめもらいやした、今の顔。耳まで真っ赤でさァ」




余裕そうに笑う沖田さんは、やっぱりドSだと思う。

からかわれてるはずなのに、声色はいつもより優しいから混乱する。




「次は、そうですねィ。今からもらいやす」




沖田さんは楽しそうに言葉を並べるけれど、わたしはわけが分からない。

今からもらうってなんにもありませんよ。そう言おうとしたはずなのに。いつのまにか距離はゼロになっていて。




「いつつめ、あんたの飯が食いてェ」



耳元で言われれば、そこから体ぜんぶが熱くなる。頭がくらくらしてたおれそう。今日ってこんなに暑かった?




「いいよな?あんた、俺のことすきなんだし」

「だから、もうからかわないでください」




くすくすと笑う沖田さんの髪が、耳に当たってくすぐったい。からかわれてるとわかってても、心臓はどきどきと大きな音をたてる。とても悔しいけれど、このひとをすきになってしまったのだから仕方ない。




「あ、ひとつ言い忘れてたけど、」




何なんだもう、さっさと離してくれないと心臓が持ちません。食べたいものでも見つかったのか、嫌いなものでも伝えたかったのでしょうか。




「むっつめ、俺の彼女になりなせェ」




毎日あなたに会いたいです




「あの、離してもらえますか。…晩ごはんの準備しなきゃいけないんで」

「初デートがスーパーですかィ」



110708
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