時代は流れる。
時代は移ろう。

だが例え、世界がどれだけ平和に向かおうとも奇跡はないと思っていたのに。

「オビトさん、カカシさんが呼んでいましたよ」

火影の館の資料室にいたオビトさんを見つけ、その背中に声をかける。彼は読んでいた資料を閉じるとこちらを振り向く。

「カカシが?ったく、伝言に名前を使うなよ」
「六代目もお忙しいみたいですし、多目に見てください」
「わかってるよ」

今こうしてオビトさんと穏やかな日々が送れるのは奇跡以外になんと言えばいいのか。語彙力の乏しい私にはわからなかった。

二人でマダラ様から逃げ出して、木ノ葉の里に逃れて、カカシさんに拾ってもらってからは順調すぎるほどだった。今もこうして普通の生活を送れているし、オビトさんのしたことが許されることはこの先一生ないだろうが、それでも今の彼を咎めるものは誰一人としていない。それが私たちに「本物」の平和を与えてくれたのだ。

「どうせまた任務だろ」
「大切なことですよ」
「わかってる」
「カカシさん、ほぼ毎日オビトさんのお墓参りしていたらしいじゃないですか」
「それ、絶対嫌がるからあいつの目の前で言うなよ」
「オビトさん、真っ赤です」
「うるさい」

顔を紅潮させて唇を尖らせる彼にクスリと笑ってしまう。でもちょっと面白くなくて、ついつい「私だって、毎日墓参りしますけどね」なんて言ってしまうと、オビトさんに「俺、生きてるけどな」と苦笑された。

「例えばの話です!」
「例えが笑えない」
「むしろ私なら後を追って死にます!」
「嬉しいけど絶対よしてくれよ」
「なんでですかぁ…」
「一緒に死ぬより、毎日墓参りしてくれる方が俺は嬉しいからだ」
「オビトさん…!」

「あのねぇ、君達は昼間っから惚気ないと気が済まないの?」

「六代目!?」
「カカシ!」

私たちの会話に突然割って入る声にそちらをばっと見ると、随分疲れた様子のカカシさんが立っていた。どうしてここに?と問いかけると「遅いから探しに来たんでしょ」と肩をすくめられて、二人して謝る。

「任務の詳しい話は火影室でするから、オビトはついてこい」
「わかってる」

先に六代目が資料室を出て行ったのを確認してから、オビトさんの服の裾を掴む。こちらを振り向いた彼はクスリと笑って、軽く口づけをくれた。

「ん…、オビトさん…」
「すぐ終わらせて帰ってくる。お前は美味い飯でも作って家で待ってろ」
「ふふ、私もお仕事頑張りますね」
「ああ、頑張れよ」

そう行って資料室を出て行く背中に手を振る。
私も仕事に戻ろうと資料室から出ると、廊下の端から名前を呼ばれる。

「名前さーーーん!!」
「どうしたの!?」
「緊急の患者です!」
「わかった、今行くわ」

走り出す部下に続いて私も走る。その道中で指輪を外して白衣の内側にしまった。



「うちは 名前、現着しました。今から医療行為を始めます」



時代は流れる。
時代は移ろう。
それでもこの世界が本物だと証明するために、私たちは今この時を生きているのだ。
大きな奇跡の賜り物を大切に慈しみながら。
君とのこれから

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