※オビト目線


初めて会った時の怯えた顔が、まるで三尾に侵食されたリンの心のように感じて忘れられない。

マダラの世話係として俺が攫った名前という少女は、いつの間にかそこにいるのが当たり前となっていて、最初は拙かった笑顔に少しずつ本物が混じって行く姿は眩しくて仕方がなかった。その笑顔がリンに重なって、恐ろしくなる。俺のこの領域に踏み入って欲しくないと素直に思った。
幸い、彼女は俺に怯えているようで、俺に笑顔を見せたことはない。それが唯一の救いで、これからも踏み入るつもりなどなかった。

なのに。
興味本位で彼女の自室をのぞいた時、白ゼツたちに手作りであろうクッキーを配る姿に俺は心底惹かれてしまっていた。それは一縷の光明に思えてしまって、慈悲深い女神のようにも見えたんだ。

俺も彼女に救われたかった。
いつの間にか心に根付いた疑念をゆっくりと溶かして欲しかった。
わかっていたんだずっと、このまま逃げていたってどうしようもないってことなんて。それでも俺には逃げることしかできなくて、この「偽物」だらけの世界を「本物」に変えるために、足掻くことしかできなくて。
………だけれど、目の前で笑っている彼女は「本物」だった。
誰でも、良かったのかもしれない。解放されたいだけなのかもしれない。それが怖くて俺は避けていたのだろうか。可能性をとうの昔に踏み消して、「どうにもならない」と嘯いて。

「オビト、これからお前は更に負担を背負うことになる。……名前を連れていけ、あいつはよく気がつく、お前を支えてくれるだろう」
「名前を…?」
「ああ、必要ならば慰み者にすればいい」
「っ…!」

俺が、助けなくてはと思った。
少なくとも今までマダラと名前の間には確かな信頼関係があるものだと思っていたし、マダラも彼女を特別なものとして扱っていると思っていたのに。
そんな奴の口から「慰み者」なんて言葉が出てくるとは思っていなかった。ここに名前を置いてはダメだ。マダラはきっと不要と分かれば情け容赦なくあいつを殺すだろう。あの笑顔に見向きもせずに消し去るだろう。それがどれほどの損失か、きっとマダラはわかっていない。

「わかった。名前を連れて行く。だが、いいのか?お前の世話をする奴がいなくなるが」
「最初からこのために見繕った女だ、気にするな」

そういうことだったのか。
いやに納得して、更にこの男が恐ろしくなる。
虚実を重ねることに躊躇いがない。きっとそれで名前も騙されてきたのだろう。俺がどこまでできるかはわからない、それに目指す場所は変わらない。それでも、そこに名前がいることは悪くない思えた。
そこに君がいるなら

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