「……トビさん!」
「はーいっ!どうしたんスか?」
「うわああ!!」

一人で名前を呼ぶ練習をしていたはずなのに、いきなりに草木の間から現れたオビト……トビさんに驚き飛び上がってしまう。本当に彼がオビトさんなのか、微妙にわからなくなってしまうから怖い。

「な、なんでもないです…」
「なんでもないのに呼んだんスか?」
「いいじゃないですか別に…練習です…」
「ほほーう。意外と大胆なんですねー」
「ど、どういうことですか!!」

やっぱりダメだ。どうしても彼がオビトさんだとは思えない。だから自然と会話ができてしまう。オビトさんと会話している感覚が鈍って来るのが、今はありがたいと思えた。

「おい、何してんだよ!いくぞ!」

トビさんと言い合っていると、そんな声がかかり慌てて立ち上がる。一緒に行動する彼は暁のデイダラさん。最初は恐ろしいところだと聞いていた暁だったが、彼と過ごすうちにその感覚はずいぶん薄れてしまった。今やオビトさんより話しやすい方になっている。
私の暁所属は、「上の指示」という半ば強引な方法で認められている。きっとデイダラさんだって不満や疑問はあるはずなのに、それを聞かないのは彼の優しさのように感じた。

「さぁて、八尾か九尾か、どっちに行くかだよなあ」
「やっぱり八尾じゃないっスかぁ?九尾の方が強いんスよね?」
「バカが。今更一本の違いなんて大した違いじゃねえだろ、うん」

二人の話は私には難しくてわからない。私にできることは近辺のお世話と、家事炊事。そしてマダラ様から命じられた「オビトさんから離れない」ということだけ。
人を殺すことなんてできっこないし、悪事の算段をつけることも私にはできない。かと言って反論できるような度胸はないし、尚且つ今更善悪の判断なんて付かなくなってしまった。

「そうと決まれば今日は宿を取るか、うん」
「宿ですか?」

野宿じゃないんだ、珍しいと思ってつい言葉が漏れてしまう。デイダラさんはニッと笑って、「流石にお前に何度も野宿はさせられねえよ」なんていうものだから、なんていい人なのだろうかと感動してしまった。

「じゃあ、名前。いつも通り宿取り頼めるかぁ?」
「はい、お任せください!」
「いつも言ってるけどよ、ふた部屋でいいからな?うん」
「先輩が一部屋で、ボクたち下っ端組で小さな物置みたいな部屋に押し込められるんスかねえ…。ぐす」
「おい、マジでお前だけ物置にぶち込んでやるからなあ、うん!」
「なんでっスか!!入るときは先輩も一緒っス!!」
「気色悪ィ!!!!」
「あはは!」

余りにもやりとりが面白いから、犯罪者だってことを忘れて笑ってしまった。クスクスと笑っていると、二人がじーっとこちらを見ていることに気づく。なんてことをしてしまったのだろうか、ハッとした私は両手で口元を抑える。

「す、すいません、私…っ」
「いや、笑ってた方がかわいい、うん」
「へ!?」

そんなことを真顔で言われ、顔面に熱が集まる。「なにスカしてるんスかぁ、先輩」「うるせえな!事実だろうが、うん!!」そんな口喧嘩も遠くに聞こえる。もしかしてオビトさんもそう思ってくださってるのだろうかなんて自意識過剰なことを思いながら、ちらりとそちらを見ると、「うっ」と息を飲む声が聞こえた気がした。

「………まあ、それに異論はないっス」

それはいつもみたいなおちゃらけたトビさんの声とも、厳格なオビトさんの声とも違って、更に顔が熱くなった。顔どころじゃない、全身だ。

「あり、がとうございます…」

もうなにに対して感謝しているのかもわからなくなって、静かに俯く。少しずつ、彼らのことを知っていけたら嬉しいな。
もっと近くなりたい

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