「………」
「………」

なんでこんなに気まずい空気が流れてるんだろう。隣に座る仮面の男を一瞥して目をそらす。唯一の救いとも言えるデイダラさんも今はいないし…二人きりっていうのはちょっと苦しすぎやしないだろうか。

「あの、トビさん…?」
「今は誰もいない」
「…オビト…さん」
「なんだ」

いや、なんだは私のセリフだ。私が水を汲んで来ると言っても「いい」の一点張りで、食料確保のために町で買い出しをして来ると言っても止められるし、挙句にトビさんの姿のまま喋らなくなるし、一体なんなんだ。

わずかながらうずまき一族の血を引いている私は、平穏な日常を過ごしていた時に突如現れた彼にさらわれ、うちはマダラ様のお世話係に任命された。曰く、うずまきか柱間の血を引いたものしか認めたくないというひどいワガママのようで、たまたま近くにいた私が選ばれたらしい。
今はお世話から離れ、彼・うちはオビトの付き人として過ごしている。流れで暁に入ったのだが、こんなに末恐ろしいところだとは知らなかった。…S級の犯罪者しかいないのだ、逆らえるわけなどない。まぁ…デイダラさんは比較的話の通じる人だから好感が持てるけれど。そんなことを言ったら私も地獄行きだろう。

「いえ、あの特に何かあるとかそういうことじゃないんですけれど、私を連れて来る意味ってあるんですか…?」
「お前にはなくとも俺にはあるんだよ」
「はぁ…」

オビトさんはマダラ様のように怖くはないが、やはりどこか近寄りがたい雰囲気がある。どうせならもっと仲良くなりたいのに…と思えるようになったのは相当成長した証だろう。

「せっかくですし…もっとお互いのことを知りませんか…?」
「……は?」
「あっ、いえ、その、これは…っ」

オビトさんがそんな素っ頓狂な声を上げるなんて初めてではなかろうか。いつも冷酷でどこか信念のある方だから、このような間の抜けたところなんて初めてみた。早急に忘れないと怒られそうだ。

「どういう意味なんだ…それは」
「どうもこうも…ただ知りたいって思っただけで…」
「なんで、知りたいって思った?」
「え…?」

オビトさんはそのオレンジ色のお面を取り、真剣な目で見つめて来る。まるで幻術にかかったように体は動かない。最近は幻術にかけられることがなかったから、油断していただろうか。

「オビトさん…?」
「俺は、もっとお前のことが知りたいと思う」
「オビトさんが、ですか…?」
「お前と過ごしていると怖くなる。…今やっていることが正しいのか分からない。今すぐにでも逃げ出してお前と二人で暮らすならそれもいいなと思うし、…ってこれじゃあ顔向けできねえな…」
「…っ」

まさか、オビトさんが笑っていらっしゃるところを見られるなんて思ってもいなくて、たとえ苦笑だとしても胸の鼓動が早くなる。ドキドキ、と、こんなの不謹慎だ。

「どうした…?」
「いえ、その、なんでもないですっ」

顔が熱いの、オビトさんにバレないようにしなくちゃ。両手で頬を覆ってそっぽを向く。ふうとため息にも満たない小さな息をつくと、彼方から何かが飛んで来るのが見えた。

「トビー!!名前!!」
「デイダラさん!!」

まさに救いの神だ!と思いながら立ち上がって手を振ると、オビトさんは再び仮面をつけておどけたように「もう帰ってきたんスかー!?」と声をあげる。

「なんだとトビてめえ!!名前に何かしてねえだろうな!!」
「せ、先輩が怖くて何もできないっスよー!!」
「ほーん。じゃあ、オイラじゃなきゃしてたってことだな」
「イヤダナー。そんなわけないじゃないですかー」
「ふふふ」

やっぱり、三人が揃うと楽しい。こうやって話しているとオビトさんはすっかりトビさんだし、デイダラさんはオビトさんのこと知らないし、だから私も彼のことを考えずに済む。
先ほどのドキドキだって気にしなくていい。

「お前、トビ。飯は!?」
「え!?なんのことっスか!?」
「あ、私買って来るっていったんですけど…。指名手配されてませんし…」
「ちょ、名前さん!!」
「ほほーぅ。名前をここに止めて何してたってんダァ?」
「誤解っス誤解っス!!なんで言うんスか名前さ〜〜んっ」
「あはははっ」

オビトさんには悪いけれど、ついつい笑ってしまう。その光景はS級の犯罪者集団なんて見る影もなくて、私の居場所そのものだった。
だから…帰還命令なんてしないでください…マダラ様…。もう少し…彼らの、オビトさんのそばにいさせてください。
囚われ少女の儚い願い

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