DAY by DAY | ナノ



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夕方頃から降り始めた雨は、風とともに勢いを増し、嵐のような轟音を鳴らし始めた。やがて雨風は雷を呼び、木ノ葉の上空を煌々とした雷電が縦横無尽に走り回っていた。

そんな最中、私は納屋で膝を抱えていた。

「ひっ」

物音の一つ一つに怯えながら。

雨が降る少し前のことだ。私の掃除好きを見込んだお義母さまに納屋の整理を言付かってここまできたわけだが、夢中で掃除をしているうちに雨が降り始め、このぐらいなら平気だと続けていると突然響いた雷の音にこの有様だ。指先まで震え、腰が抜けて立ち上がることもできない。
雷は嫌いなのだ、昔から。嫌いというレベルじゃない。正真正銘大っ嫌い。

「ふっ…ぅ…うぅっ」

納屋の中は薄暗く、掃除をしたおかげで埃くささはなくなったものの、湿気を帯びたカビの匂いが充満している。長くここにいたくないのも事実だが、ここから動けないのも紛れもない事実。私は膝の頭に顔を埋めた。

「ひゃああ!!」

そしてまた響く雷鳴に怯えて、ぎゅっと目を閉じる。早く通り過ぎて欲しい、いなくなって欲しい、そう願うも再度降り注ぐ雷鳴に言葉はかき消えて行く。

「いやだぁ……」

今まで生きてきて嫌なことはたくさんあった。それでも雷に比べたら些細なことだと耐えてきたのだ。だから私は雷を克服する方法を人生の途中においてきてしまって、誰かがそばにいてくれないと不安と恐怖で押しつぶされて死んでしまいそう。

頭によぎるのは千手家の者たち。以前までは皆がそばにいてくれた。だけれど今は?

きっと、誰も助けになんて……


「観音!!」


そう諦めかけた時、納屋の扉が勢いよく開く。扉一枚隔てていた轟音が直接耳に届き一瞬身構えるが、いやしかしそれ以上に扉を開けただろう彼が真っ先に目に入って息が止まるかと錯覚した。

「イタ、チさん…」

息を荒くし、肩で呼吸を整えるその姿に震えて動かなかった足が自然と動き出した。

「大丈夫か…?母上にお前がここにいるかもしれないと言われて……観音?」

こちらに歩み寄って、目線を合わせるようにしゃがみ込んだ彼に胸の中の何かが、もう止まらなくなってしまう。彼の姿は雨でひどく濡れていた。後悔と愛しさで苦しいぐらいだ。

「イタチさんっ!」

私が怖かったのか、彼の濡れた体を少しでも温められたらと思ったからなのか、もう自分でもわからなかった。ひたすらに伸ばした手で彼に抱きつき、冷たい布越しに伝わる温もりに涙腺が緩む。

「もう…大丈夫だ」

優しい手つきで頭を撫でられて、今度は安堵の涙がこぼれる。今もなお轟く雷の音はもう遠くになったような気がしている。我ながら簡単だと自重しながらも私はその温もりに瞼を下ろした。
強く響く鼓動に、確かな愛おしさを孕ませて。


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