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「あれ…」
お義母さまが出かけられたその日、代わりに洗濯物をたたんでいるとイタチさんの服がほつれていることに気づく。裾の方だから目につくというわけではないと思うが…。
「よし…っ」
私は家から持ってきた裁縫道具をとりに自室として与えられた部屋に向かう。お節介とか、迷惑だとか思われたらどうしようと思いつつも、これを放って置けるわけではなかった。
家事炊事は花嫁修行だと言われ一通り覚えた。家事炊事できて困ることはないと言われたのもあるし、同年代の子が忍術に打ち込む中、私にできることがこれだけだったから、不器用なりに必死に頑張ったっけ。今では一番自信があるのが家事炊事である。
洗濯物をたたみ終わった私はチクチクとイタチさんの服の裾を縫う。黒いし、直したらもうわからないほどには綺麗になるだろう。
「…なにしてる」 「っ、あっ…、さ、サスケくん…!?」
突然背中から声がかかり思わず持っていた針を落としそうになる。それをなんとか堪えて、そちらを向くとすごく真剣な表情で私の手元を覗き込んでくるサスケくんにまた驚く。
「裁縫?」 「は、はい、イタチさんの服がほつれていましたので…」 「そうか。箱入りだからって何もできないわけじゃないんだな」 「私のことなんだと思っているんですか…?」 「千手のオヒメサマだろ」 「う…」
事実なだけに何も言い返せない。サスケくんはちょっぴり意地悪だ。こうやって時々ちょっかいをかけてきてはイタチさんそっくりな顔で不敵に笑うものだから言葉が出なくなる。まぁ、これもこれで関係は良好なんだと思うけれど…。
「母さんもそうだけど、女ってなんでそんなに陰ながら支えたがるんだよ」 「へ…?」 「………」
真っ直ぐなその黒い瞳に淀みはない。彼の本心からの疑問なんだということはすぐにわかった。だからこそそんなことを聞かれるとは思っていなくて言葉に詰まる。
なんで…か。そんなこと考えたこともなかった。だからどうやって言えばいいのか…。
…あ、そうか。 それが答えなんだ。
「理由なんてありませんよ」 「なんだそれ」 「なんでしょうね。その人を支えたいと思うからこその結婚なんだと思います」 「…お前は政略結婚だろ」 「いえ、その、そうですけれど…。でも、私はイタチさんを支えたいと思った…それだけなんです」 「ふぅん」
サスケくんは分かったのか分かってないのか曖昧な返事をして踵を返す。「兄さん、もう直ぐ帰ってくる」とだけ言い残して部屋を出て行くと、足音は遠くなっていった。
「って、帰ってくるんですか!?」
ぼーっとそちらを見ていたため彼の言葉が一瞬何を示すのかがわからなかった。私は慌てて針を動かす。
なんだか、こういうことを開けっぴろげにするのは好きではない。できれば素知らぬ顔をして綺麗になった服とともに彼を出迎えたいものだ。
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