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「あのぉ、お義母さま?これは…」 「娘ができたらずっとやりたかったことなのよ」
ニコニコと微笑まれると何も言えなくなり、そっと自分の服装に目をやる。ヒラヒラとたくさんフリルがあしらわれたその服は、家にいてもきたことのないような可愛らしい服だった。
「しかし…私に似合うとは思えないのですが…」 「そんなことないわ!十分可愛い!」
美人な彼女に言われると素直に嬉しくて口角が上がってしまう。綱姫様といい、お義母さまといい、美人な方は私を甘やかしすぎではないだろうか。
「これをイタチにでも見せてきなさい」 「い、いえ。任務で忙しいでしょうし…それは…」 「あら、籍を入れてからの方がもっと忙しくなるんだから、今のうちに楽しめることは楽しんだ方がいいわ」
実は私とイタチさんはまだ籍を入れていない。本当は即日入れる予定だったのだが、「しっかりと心が決まってからにしよう」という彼の優しい言葉に甘えて先延ばしにしてしまったのだ。
「イタチさんは…こんな私をみて喜んでくださるでしょうか…」 「あら…」
私たちは先日出会ったばかりだ。なのに出会う前から結婚が決まっていて、本当は私を疎ましく思ってるのではないだろうか。ずっと心の底に住み着く不安はゆっくりと肥大していって、早く止めないと取り返しがつかなくなりそう。
「そうやって悩めるなら、観音ちゃんは大丈夫ね」 「え…?」 「ふふ…。ゆっくりでいいから、ちゃんと好きになってあげてね?」 「も、もちろんです!!それが私の役目ですから…った!?」
お義母さまの言葉に深く頷くと、おでこを軽く小突かれた。痛くはないが反射で目を瞑ってしまう。ゆっくり瞼を持ち上げると、彼女は唇を少し尖らせている。
「ふぇ…?」 「役目とか、義務とかは忘れて!」 「は、はいっ」 「ちゃあんと、心の底から恋をして、愛してあげて欲しいの」 「……」 「あの子は不器用で、愛されることに慣れていないけれど、きっと愛されてきたあなたなら愛をあげることができるわ」 「私が…?」 「そう。政略結婚なんて…って思っていたけれど、あなたみたいな子になら任せられる。イタチを、幸せにしてあげてね」
そう言って笑う姿があまりにも儚くて、美しくて言葉がない。意思の強い黒い瞳に弱音なんて吐けなくて、私はコクリと首を縦に振った。
私なんかじゃ無理だって思う反面、私にできるならとも思う。 矛盾したその気持ちは自ら噛み下すしかなくて、深く胸の内に隠した。
「さぁ!いってらっしゃい!」 「きゃっ!?」
トンっと背中を押されて廊下に飛び出る。そのままバランスを崩しそうになっていると、軽く誰かに抱きとめられた。
「大丈夫か?」 「あ…」
それは紛れもなくイタチさんで、急激に頬に熱が集まるのを感じる。こんなに男性と至近距離になるなんて初めてのことだ。緊張で言葉が出ない。
「その服…」 「あ、その、お義母さまが…っ、着せてくださって…」 「そうか、よく似合っているな」 「…っ!!」
あなたはさらっといってのけるけど、私には深く突き刺さる。その言葉がどうしても聴きたかった。そう思うのはなぜだろう。
「ありがとう…ございますっ」
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