一番星番外編 | ナノ



今日という特別な日を、私はいつも手放してしまう。

朝日より早く起きて、私は着替えを始める。彼からいただいたその服は今では少し汚れやほつれなどが目立つようになったが、なんとか修繕を繰り返してきちんと着れるように保ってきた。着替えをすませると、洗面所で顔を洗ってからキッチンに立ち、いつもより丹精込めて朝食を作る。ナルトくんの分はラップをかけてメモを添えておく。自分の分はゆっくり時間をかけて味わって飲み込んだ。味付けはやっぱりうちは家のものなのだろうか、今ではもう判断がつかないけれど、多分今まで生きてきた中で食べてきた手料理は全てうちは家のものだったように思えるからきっと私のものも似ているのかもしれない。そうだとしたら嬉しいなって、心の底からそう思った。だって、いつか見たあなたの花嫁になる夢が叶ったみたいなんだもん。なんて、恥ずかしくてあなたの前じゃ絶対言えないや。

本当は軽口を叩くだけの余裕なんてない。後悔と罪悪感と悲哀と忿怒。様々な感情が渦巻いて指が震えている。それでも私は足を止めないとあのとき決めたのだから。
黒く錆び付く醜い感情よりも、遥かに強い感謝と愛しさで心を包むイメージをして、動かない腕の代わりに足を踏み出す。もし神様がいるならば、やり直しなんて願いません。だから、今日だけは、今年こそは、勇気をください。
去年まで上がらなかった顔を上げて。腕には額当てを巻きつけた。そう、これが私の背中を押してくれるから。

「…よし」

深呼吸を一つ。私は決心するように呟いて、重い腰を上げた。




毎年予約してはダメになる花束を今日こそはしっかりと受け取り、目指すは里の外。彼の眠る場所へ。

一歩進むたびに重くなる足取り。それでも柔らかな風が頬を撫でるたびに歯を食いしばって地面を蹴る。太陽は高くに顔を上げ、里の中には活気も溢れ出した。その喧騒から逃げるように森へと進んで行くのがいかに恐ろしいことか。それでもそこにあなたがいるのならば、私は閑散とした闇にだって身を投げてみせよう。

人気のない門を抜け、星屑家の修練所があるその森の中に、うちは一族の墓石はある。個人のものなどはなく、あの夜に、そしてあの夜付近に、あの人に殺された、または殺されたとされる人々は皆この墓石に眠っているのだ。…もちろん、シスイさんもここで眠っている…筈だ。少なくとも私はそうだといいなと思っているし、だからこそここにきたのだ。見上げる墓石は私の身長などゆうに超すほど大きい。なんだかあなたの心の広さを表現しているみたいだと、小さく笑んでしまった。
私はまず手を合わせる。ここに一人できたのは初めてだ。いつもは大体サスケくんがいるから…。フガクさんやミコトさんに近況を報告してから、短く謝る。

今日はお墓参りに来たわけじゃないんです。むしろみなさん嫌がるかもしれません。でも、私にはやっぱり大切な日なんです。

私の心で生きるフガクさんとミコトさんは仕方がないといった風に笑って、許してくださった。私の都合のいい妄想かもしれないけれど、そんなものはどうでもいいのだ。

「シスイ…さん」

久しぶりに声に乗せたその響きが脳を甘く揺らす。こんなに優しい名前だったっけってとぼけてみて余計に恥ずかしくなった。

腕に抱えた花束を墓石の前に供える。なんだか全然しっくりこなくてやっぱり菊にしとくべきだったかなと苦笑が漏れる。
だけれど私は、あなたの亡くなった日を偲ぶより、生まれて来た日を祝いたいのです。私と出会ったくださった奇跡と、素敵な思い出をくださった運命に、至上の感謝を込めて。そしてあなたといういとし人に、とめどない愛を込めて。

「誕生日、おめでとうございます」


私はもう二度とこの日を手放さないよ。
例えあなたより大人になっても、あなた以上に好きな人ができても、おばあちゃんになっても絶対に。

あなたは私にとって、永遠の星だから。




10/19 Shisui's birthday!

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