一番星番外編 | ナノ



「今夜のメニューはこちらです!」

ドキドキとした心持ちのまま彼の目の前に大きな器を置く。テーブルを照らす独特のオレンジ色の明かりはスポットライトのようで少し恥ずかしい。ゆらゆらと湯気をあげるそれを見た瞬間ナルトくんは「おーーーー!!!」と前かがみになって声を上げた。

「ラーメン!!」


本日10月10日は大切なナルトくんの誕生日だ。もちろんそんな日に私が手を入れないわけがない。二週間前から彼に内緒でテウチさんに弟子入りし、ラーメンを作る技術を習得したのだ。途中からテウチさんも本気になってきて、満足のいく出来のラーメンが完成した時、抱き合って号泣したのもいい思い出である。

「これ、ながれが作ったのかァ!?」
「あったりまえでしょ」
「ラーメンって手作りできるんだな…」
「一楽のラーメン誰が作ってると思ってんの…」

私の小言は耳に入らなかったのだろう、彼は色んな角度から輝いた双眸でラーメンを見ている。もちろんこの反応を予想して期待もしていたけれど、実際されると照れるものだ。段々むず痒さを感じるようになってきた。

「もー、伸びるから早く食べて!」
「それもそうだってばよ!じゃあ…」

私が差し出した箸を片手に、明るく「いっただきまーーす!!」と声を上げたナルトくんは美味しそうに麺をすすり始める。

「うまい!!」

第一声はそれで、思わず胸をなでおろしてしまう。ベースは勿論一楽のラーメンなのだが、流石にそれをそのまま出すことなんてできないし、私なりに少しアレンジを入れてみたのだが、美味しいって言ってもらえて安心した。
思いだけは人一倍込めたつもりだし。一番長くナルトくんの側にいた者として、今までの「ありがとう」とこれからの「よろしく」を。照れ臭くていつもは言えないから、今日ぐらいは。

「ねぇ、ナルトくん」
「んー?」

口を大きくもぐもぐ動かしながら、彼は目を細めて首をかしげる。いつもの表情だ。何だか私ばっかり緊張して馬鹿みたい。こんなに近くにいるからこそ、改ってっていうのが難しいんだろうなと苦笑が漏れた。「なになに〜。何笑ってるんだってばよ〜」唇を尖らせてぶすくれる彼に私はもっと笑ってしまう。最初は「なんだよー!」と声を荒げるナルトくんも最後には私と笑っていて、結局こうなってしまうんだなと共に過ごした月日を振り返った。

「はぁ…ごめん。ナルトくんといるとすぐ笑っちゃう」
「へへ、あのさあのさ、それって楽しいってことだろ!?」
「うん、そういうこと」
「じゃあもっと一緒に笑おーぜ!」
「っ」

ニカッと歯を見せて笑う彼に、ぐっと涙腺が熱くなる。笑いすぎて情緒が不安定になったのか、今日が特別な日だからなのかはわからない。だけれど突如滲み始めた涙は呆気なく視界を揺らした。

「ながれ!?」
「ごめ…っ」

ぎょっと肩を揺らす彼に短く謝って、必死に目元を拭う。ナルトくんは下唇をぎゅっと噛みしめると、再度ラーメンを食べ始めた。そして器を持ち上げ、大きく呷る。ゴクゴクと喉を鳴らす音に胸が暖かくなった。

「ぷはぁ!っほら!完食だってばよ!!」

太陽のような笑顔でそんなことを言われたらもう我慢できなくて、声を上げて泣いてしまう。ナルトくんは私がさらに泣くとは予想だにしていなかったようで、「うえぇ!?」と慌て始める。
それからしばらく泣き続けて、何度もされたナルトくんの「大丈夫か?」という問いにやっと答えれるようになる程落ち着いてきた時、真っ先に口をついたのは「おめでとう」だった。


「誕生日おめでとう…」
「おう…」
「産まれてきてくれてありがとう…っ」
「うん」
「出会ってくれてありがとう。一緒にいてくれてありがとう。側にいてくれてありがとう…」
「それは…おれも一緒だってばよ…」
「うん…。あのね」
「ん…」
「あの時、ナルトくんが一緒にいてくれてよかった」

思い出すのは母が亡くなった時のこと。ぽっかりと空いた胸の内が暗闇に支配されなかったのは、太陽のように笑う彼がいたから、彼が私を必要としてくれたから。だから今私はこうやって笑って泣いてありがとうって言えるんだよ。

「おめでとう、ありがとう…。私、ナルトくんが大好きだよ」



不器用だけど優しい君だから、今私は前を向けてるんだよ。
これからも情けないところはいっぱい見せちゃうかもしれないけれど、それでも隣にいてね?

願わくば、君の人生がたくさんの祝福で包まれますように。
願わくば、君がたくさんの人に愛される人になれますように。
願わくば、君の心にいつも私がいますように。
願わくば、来年もこうやって一緒にいられますように。

願わくば、その夢が叶いますように。
私はずっと君の幸福を祈っています。



10/10 Naruto's birthday!

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