006
「じゃあ、またね!」
日が沈み始めた頃、私はナルトくんと別れて帰路に着いていた。明日も来ようかな、でも毎日外出していたら流石にバレるかな?バレたら説教かな。遊んでる暇があるなら礼儀の一つでも覚えなさいって。
こういう時、母は放っておいてくれるから楽だ。ただ家の者はダメだろう。さらに、うちはの者以外と遊んでいたとなると…冗談じゃない。明日は大人しくしていよう。
そう決めて里の門を出ようとすると、逆に里に入って来る誰かとすれ違う。自然とその姿を追いかけると見知ったうちはの家紋。でも知らない人だ。
…最近うちはの家紋をいつも以上によく見る気がする。こんな活発に動いていたような記憶はないのだが。それは、まるで何かが変わる前触れのようで、無性に不安になる。……気のせいならいいのだけれど。
「ただいま…」
小さく呟きながら屋敷の大きな扉を押しひらく。中は薄暗く、返事はない。誰もいないならいい、とため息を吐き、一直線にダイニングを目指す。ダイニングもまた薄暗く、テーブルの真上の天井から吊るされたピンライトがスポットライトのように照らすだけだ。私はいつも通りテーブルの上の弁当をレンジで温めると、椅子に座って手を合わせた。
それにしても静かすぎる気がする。
星屑家はこの大きな館に一族全員が暮らしている。第三次忍界大戦や、木ノ葉の里を襲った"天災"とやらで人数は著しく減ったものの、それでも一緒に暮らすには多すぎるだろう。
さらに、家中では上下関係があり、私の母のような他家の血が混じらないものを純血と呼んで、私のような他家の血が混ざったものを混血と呼んでいる。もちろん、純血である母が現当主だ。…母は私のことも純血で産みたかったようだが、いかんせん適度に血の離れた男がいなかった。故に私は混血となり、才能がないと蔑まれている。今は当主の娘だから表立った行為や悪口はないが、もし母がいなくなった時のことを思うと怖くて仕方ない。それに木ノ葉の里の人間とほぼ関わりのない一族…、いや星遁の恐ろしさから距離を置かれている一族だ。多分、どこにも救いはない。
弁当を食べ終わり、容器をゴミ箱に捨てる。私はダイニングを出て、自室に向かうことにした。…やはり人気がない。一族全員が出払うことなど今まで無かったし、ここまで人に会わないのは初めてだ。
まあ、気楽でいいか。
私は気兼ねない現状に感謝し、自室に入る。内側から鍵を閉め、椅子に座った。今日は母に渡された忍術書を読まなければ。母の言葉が子守唄の代わりなら、これは絵本代わり。書を読むだけならワクワクするし、母のように根性論だけじゃないから納得できる。母から課せられた様々な事柄の中ならば存外好きな方だ。
「あ…」
書を読みきり時計に目をやると随分時間が過ぎていた。急いで着替えを手にし、お風呂場に向かう。しかし未だにお湯は張ってあらず、驚く。めんどくさいと思った私は軽くシャワーで済ませることにした。
お湯が張ってないということは今まで無かった。…今日はやはりおかしい、一族総出で出払うなんて…
「せめて私に一言あってもいいのに……」
その愚痴は誰にも届かず、虚空にむなしく溶けて消えるだけ。
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