005

「今日はやめにしましょう」

母のその言葉はやはり突き刺さる。
今日も全く星遁の発現を感じさせなかった私に母は呆れ修練場を出て行った。いつもは少しならず落ち込んで家に帰るのだが、今日はその限りではない。私はすぐさま気持ちを切り替えて、公園に向けて走り出した。



「なるっ」

「あの子でしょう?化け物の子って…」
「いつ暴れ出すか…本当に怖いわ…」

息を切らして公園に飛び込むと、そこを出て行く親子連れの言葉が耳に入る。もしやと思って辺りを見渡しても、そこにいるのはナルトくんだけで、その言葉が彼に向けられていることはすぐにわかった。

化け物?
暴れ出すってなに?

星屑の家は里への関心が薄いため、情報が著しく抑制されている。私には何のことなのか全くわからなかった。でも、それが原因で彼が一人なのは分かる。

ナルトくんは今日も俯いてブランコを漕いでいた。私は慌てて彼に駆け寄り「ナルトくん!」と声をかける。

「ながれ!」

ガバッと顔を上げた彼はぱっと表情を明るくした。なぜかその笑顔で安堵する自分がいる。
私がいることでナルトくんは笑える。それがどれほど私を救うことか。特に、あの修練の後だと。

「今日は何する!?」
「えっと……。そうだなあ…。…いつもナルトくんは何して遊んでるの?」

ワクワクと聞いて来る彼に軽い気持ちで問いかけると、彼の目が光を失った。その碧眼が赤くなったような気がしてゾッとする。あまり触れてはダメだったか…いや、そんなことよく考えれば分かることだ。だって、昨日と同じくこの公園で一人だったのだから。

「ナルト、くん?」
「……いつもは、落書きしたり、いたずらしたり、……時々怒られっけど、オレは絶対やめないってばよ!」
「え…?」

さっきの彼が嘘かのように明るく答えるナルトくんに言葉がない。「化け物」その言葉がやけに胸に残った。
「どうした?顔色悪いってばよ?」心配そうに聞いて来る彼に私は少し焦る。何でもないよ、と取り繕ったかのように笑えば、彼は特に気に留めた様子もなく「そっか!」と応えた。

私、この子と遊んでていいのかな?
少なからず抱くその疑念も、優越感は超越する。
自分より虐げられているんだ。可哀想な子だ。その意識が何よりも私には必要だった。

「じゃあね、今日は…」

胸に渦巻く不安を押し込んで、何をしようかと頭をひねる。ナルトくんも「んーっ」と目を細めて考えているようだ。ほら、こうしていればなんてことはない。ただの男の子なんだから。


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