063

「見て!すごく綺麗だよ!」
「ああ…」

私が指差す先を見て、彼は少し目を細めた。星が綺麗な夜のこと、雪城さんに内緒で宿を抜け出してやってきた公園。少しばかりの罪悪感と圧倒的に心中を支配する高揚感。なんだか悪い子になったみたいで俄然楽しくなってしまった私は、本当に悪い子なのだろう。

あの日から私と我愛羅くんは約束をして会うことが多くなった。それも全て夕方以降の里から人が消える時間だ。この時間になると我愛羅くんは気が楽になるようで、少しずつ笑顔も見せてくれるようになった。私にはその些細な変化でも嬉しいし、なによりも自分が間違っていなかったんだと実感できて堪らなく安心する。

公園の遊具に登って、肩をつき合わせ二人で空を見上げる。なんでもないそれだけのことが私に幸福を与えてくれる。我愛羅くんも同じだったらいいのに。なんて欲張りだろうか。

「我愛羅くん、眠くない…?」

そういえば我愛羅くんの目元には深い隈があることを思い出して覗き込むようにして問いかけると、聞かれたくなかったのだろう彼はふいっと目をそらしてしまった。それならいいやと再度上を見る。話したくないことは聞かない、きっと言いたいことはいずれ自分から言ってくれるだろうし、無理に聞き出すなんて強引なことはしたくない。

「眠くは…ない」
「え…?」

隣からボソリと吐かれた言葉につい肩を揺らしてしまう。そのまま彼は少し俯いて淡々と口を動かす。

「もう、慣れた」
「慣れた…?寝ないことに?」
「ああ…」
「そっか」

大変だね、とか、どうして、とか、そういう言葉が頭に浮かばなかったと言ったら嘘になる。ずっと抱いていた疑問だってぶつけたいに決まってる。それでも、多分私だったらそれは嫌だと思うから、我慢。私は我愛羅くんの事情なんて汲んじゃだめなんだと思う。ただここにいればいいんだと思う。愛し方なんて、まだまだ未熟でわからないけれど、それでも、私の思うままに寄り添いたい。

眉根を下げた彼の表情は安堵が見て取れて一息吐く。そのままインクをこぼしたような紺碧の高い空を見上げると、一筋の流れ星が降った。

「あ…」

小さく声を上げると、我愛羅くんも私に倣って空を見上げる。しかし瞬く間に消えてしまった流れ星はきっと彼には見えていないだろう。こちらに首をかしげる彼に私はつい口角を上げてしまう。彼の瞳は翡翠色。月明かりに照らされて虹色に輝く。吸い込まれそうなほど綺麗。色んな角度からもっと見ていたい。不思議な魅力を持った目だ。

「ふふ、秘密」

その目に溶け込ませるように闇夜に声を落とす。我愛羅くんは目は瞬かせると、少しそれを細めた。無表情に見えた彼はそんなことなんてなくて、こんなにもわかりやすく感情表現をしてくれる。なんでもない今、この時がすごくすごく幸福だ。



確かにそう思っていたのに。


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