062

また男の子か!?としつこく聞いてくる雪城さんの追求を逃れて私は宿を出る。今日も今日とてこの国は暑い。このジメジメとした暑さになれることはないんだろうなと気が重くなる。
風の国に来てから一週間。何だかんだ我愛羅くんに会わなかった日はないかもしれない。これは偶然なのか、それとも彼も私を探してくれているのか。もし後者だったらすごく嬉しいなんて、独りよがりにもほどがあるだろうな。それでもいいや。私が彼に会いたいと思っているのは事実なのだから。

公園や人通りの多い道で同年代ぐらいの子に声をかけて、時には遊びながら話を聞く。任務だとはわかっていても、これが楽しくなってきてしまっている。こう思うたびにまだ自分が子供だということを実感していた。

やがて日が暮れて子供たちはみんな帰っていく。私はそれに手を振って風影邸に向かった。道中私に向けてであろう悪態を背中で受け止めて、でも足は止めない。多分我愛羅くんと一緒にいるからこういうことを言われるんだって気づいている。でも残念ながらこういうことはなれているためちっともこたえない。それも異常だとはわかっているつもりだ。

「あ!」

思った通り、風影邸の前に我愛羅くんはいた。今の風影と我愛羅くんがどういう関係なのかはわからないが、多分何かしらあるのだろう。彼は不思議なことや謎なことばかりだ。

「我愛羅くん!」

名前を呼びながら駆け寄ると、彼の表情が一瞬悲しげに歪む。何だろうと思って覗き込むが、その些細な変化はもう名残すら残っていない。

「…どうしたの?」

しかしそれがどうしても引っかかってしまって、まるで弁当の隅を突くような言葉が出てくる。彼は目を丸くして、それでも必死に目をそらそうとしてくるのがわかるから胸の奥がぎゅっとなった。

きっと彼も気づいたんだろう。
私が悪態をつかれていることに。

「大丈夫だよ」
「…っ」
「私がしようと思ってしてることだし、我愛羅くんが気にすることじゃないよ」
「だが…」

今こうやって悩んでくれるだけで満足って言っても伝わらないだろうから、彼が安心できるような笑顔を浮かべる。少し緩んだ表情に安心する。彼の不思議な色を讃えるその目は、今まで何を見つめてきたのだろう。我愛羅くんは優しい子だ。だからこそ私が笑顔を失ってはいけない。

彼が日暮れ時のこの時間だけ外に出てくることは知っている。多分、彼自身も自らに向けられる異物を見るような目から逃げているのだろう。まばらに歩いている人々は皆一様に我愛羅くんに怯えた視線を送っていた。居心地がいいとは思えないそれは、ナルトくんの時と似たものを感じた。

「我愛羅くんは、私といるのは嫌?」
「……いや、じゃない」
「うん、じゃあそれでいいよね」
「……?」
「我愛羅くんが嫌じゃないならそれでいいんだよ」

彼は優しさに慣れていない。
甘えることを知らない。
愛されることを知らない。
それは昔の私そのもの。
今の私は色んな人に愛されて、自分に自信を持つこともできた。
なら今度は私が誰かを愛する番だ。


「そんな顔しないで」

眉根を寄せる彼の手を掴む。少し冷たいその手は震えていた。ずきんと胸が痛む。あの頃の私に光を見せてくれたシスイさんみたいに、私だって。


「私に我愛羅くんを愛させて」


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