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「最近上機嫌だな」

美味しそうに蕎麦をすする雪城さんに言われて私は首をかしげる。「そうですか?」と問いかけると、「父ちゃんの目は騙せねえぞ」とニヤリと笑われる。この人本当にこういう風に笑うことが多い。

「そうかなぁ…あんまり自分じゃわからないです」
「なんか笑顔が増えたんじゃねえの?毎日楽しそうだしよ」

風の国に来てから3日が過ぎた。情報もそれなりに集まって来たし、なかなか情勢もわかって来た。これなら一ヶ月せずに帰れるぞと、雪城さんが笑っていたのが印象に残っている。

「友達、できたのか…?」
「どうだろう…私は友達になりたいんだけど…あっちはどう思ってるかなぁ」
「なんだ。そんなことなら気にするな!ドンドン話しかければいいさ、お前は俺の子だろう?」
「!!」

そう言われるとすごくくすぐったくて、嬉しくて、そしてちょっぴり悲しくなる。母が言っていた「私の子」に、私はちゃんと近づけているだろうか。

「うん、そうだね…」

そう、私は母さまの子なんだから、もっと自信を持つべきだ。母が信じてくれた私を、私が信じなければ誰が信じる。

「ところで、そいつは女の子だろう?」
「ううん。男の子」
「なんだと!!??まだ嫁には出さんぞ!?」
「何言ってるんですか、お父さん」

机をバンと叩いて抗議する雪城さんに思わず苦笑が溢れる。でもそう言ってもらえて嬉しいなんて、絶対に言ってあげない。



「我愛羅くん!!」

帰って行く子たちに手を振って、しばらく里の中を歩き回っていると風影邸の前で我愛羅くんを見つけた。そういえば今日はまだここに来てなかったな、と思いながら駆け寄ると、我愛羅くんは伏せていた顔を上げる。

「こんにちは、あ…もうこんばんはかな?もう暗くなっちゃったけど、我愛羅くんはどうしたの?」
「……お前を探していた」
「え…?」

我愛羅くんは無言で私に紙袋のようなものを差し出して来た。手のひらに乗るサイズのそれを受け取ると、我愛羅くんは「痕が残らなければいい」と言って、風影邸に入っていってしまう。

「え…?え?」

いきなり紙袋を渡して来たことも、風影邸に入っていったことも衝撃的すぎて理解が追いつかない。それに、痕ってなんのことだ。

少しでも疑問を解決しようと紙袋を開けると、中には傷薬やガーゼ、消毒やテープなどが入っていた。もしかして…と視線は自分の指先に向く。

「この傷のため…?」

昨日サボテンで怪我をした指は、もう薄くかさぶたが張っている。それでも我愛羅くんは私を心配してわざわざ用意してくれたのだろうか。

「はは…」

ずっとずっと彼がなんで一人なのか。家族にすら恐れられているのか。どうしてあんなに不思議な目をしているのか。何もかもわからなかったが。なんということはない。

彼が、こんなに優しい人だってわかったのなら、あとはもうどうにだってなるだろう。


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