060

「じゃあ、今日も行って来ます!」
「おー、気ぃつけろよ」

雪城さんと二人で昼ご飯を食べてから宿泊している宿を飛び出すと、子供達が集まりそうな場所を目指す。
昨日行った公園はなかなか人が集まっていたし、今日も行ってみようかな。でも同じところばかり行っても情報が偏るか。素でいいと言われたがやはりそう言うことは考えてしまう。昨夜伝えた情報でも雪城さんは上出来だって褒めてくれたけれど、できるならもっとたくさん。
例えば我愛羅くんみたいな、特殊な事情がありそうな子は…。

「そうだ!」

昨日彼が言った言葉を思い出す。私が風影邸前を通った時、彼はそれを見ていたんだ。ならばその近くに住んでるのかもしれない。そうと決まればじっとしていられない。また明日って私から言ったんだし、何よりももっと仲良くなりたい。どうしても彼が昔のナルトくんみたいに見えてしまって放っとけないのだ。
あの時はただの偽善だった。自分が優位に立ちたいだけだった。
でも今回は…今回こそは初めから対等に友達になりたいから。



風影邸前を何度も往復しては辺りを見渡す。時々昨日話した子達が声をかけてくれたりして退屈はしないけれど、見当違いだったのかなと落ち込みそうになる。もっとそういう観察眼も鍛えるべきだろうか。

「はぁ…あっつ…」

砂隠れの里は日中の温度が非常に高く、動き回っていると額を汗が伝う。この里を囲む岩壁は里を守る防護壁であり、日照時間短縮の用途もあると雪城さんが教えてくれた。私は慌てて日陰を探す。人一人分入れそうな場所は…と考えていると、足元に緑色でトゲトゲした植物があることに気づいた。

「なにこれかわいい!」
「サボテンだ」

その場にしゃがみこむと同時に淡々とした静かな声が聞こえてきた。誰だろうと声のした方を見上げると、そこにはずっと探していた我愛羅くんが立っていた。

「我愛羅くん!こんにちは。昨日はありがとう!」
「……」

我愛羅くんは相変わらず不思議な目をしてこちらを見下ろしてくる。その無表情を不思議と怖いとは思わなかった。もっと笑顔が見たいとは思うけれど。

「これ、サボテンっていうの?」
「ああ」
「へぇ、初めて見た。かわいいね?」
「かわいい…?」
「かわいくない…?」
「よく、わからない…」

我愛羅くんは少し俯いてそう呟いた。なんだか不安そうに見えるのは錯覚だろうか。

「まあ、どう思うかは人それぞれだよね」
「え…?」
「だって、我愛羅くんには可愛いかどうかわからなくても、私にはかわいく見える。他にもトゲが怖い人がいるかもしれないし、気持ち悪いって思う人もいるかも。何でもかんでも人それぞれだよ」
「………」

何を不安に思っているのか私には見当もつかないけれど、それでも、少しでもいいから彼の不安を拭いたくて、私は彼に笑いかける。昨日から感じる彼との距離を縮めたかった。

「そう…だな」

我愛羅くんは小さくそう呟いて、私と同じようにしゃがみこむと徐にサボテンへ手を伸ばす。しかしもう少しで触れるかもしれないその時に、彼は視線を上げた。

「このトゲ、"痛い"と思うか?」
「え…?」

どうだろう。意外と柔らかかったりして、と思いながら私も手を伸ばした。そして何の気なしにサボテンに触れると、指先に痛みが走る。

「った」
「ながれ…!?」

よく見ると指先から血が流れている。どうやらトゲは本当にしっかりとしたトゲみたいだ。
痛いよこれ、と笑っていると、目を見開く我愛羅くんに血が伝う手を取られた。

「血が、出てる」
「うん。刺さっちゃったみたい」
「痛いのか…?」
「ちょっとね」
「そうか…」
「血がついちゃうよ」
「別に、気にしない」
「なら…いいけど、止血していいかな?と言っても舐めるだけなんだけどね?」
「……」

我愛羅くんはゆっくりと手を離して、私が指先を口先に含む様すらずっと見つめてくる。それが少し恥ずかしくて目線をそらすと、我愛羅くんの視線もそれたような気がした。


back