057

お父さん…お父さん…と今まで呼んだことのない呼称を何度も繰り返しながら荷造りの手を忙しなく動かす。慣れない響きだから、ふとした時に「雪城さん」と出てしまうと困るので、入念に。

「なぁなぁ。さっきからぶつぶつぶつぶつ、何言ってるんだってばよ」

私が全然構わないのに拗ねてか、ナルトくんは身体を左右に振ってこちらの様子を伺ってくる。「ごめん ナルトくん、とっても大切なことなの」とやんわり断ると、彼は頬を膨らましてむくれた。

「もういい!ながれなんてしーらねぇ!」
「なに拗ねてんの」
「拗ねてなんかいねえよ!子供扱いすんな!!」
「今夜の一楽やめとく?」
「ず、ずるいぞ!!」
「やめとくならいいけど」
「いく!!」

子供扱いするなと言いつつ、欲望に忠実な彼に笑ってしまう。私がクスクス笑うのを見てナルトくんは恥ずかしそうだけれど、私はナルトくんのラーメンでつれちゃう簡単なところが大好きだ。

明日、私は火の国を発つ。
特別任務の話をした時、ナルトくんは一瞬寂しそうな顔をして、しかしすぐ笑顔を作ると「ぜってえ完遂しろよっ」と激励してくれた。サスケくんは睨んできたのだけれど、その意図はわからない。サクラちゃんは心配してくれたし、カカシ先生にはむしろ私の方から「多めに漬物つけときますね」とこっそり伝えると、悪いねと笑ってくださった。
何度か一緒に任務をこなして、この四人と一緒にいるのが楽しいと思っていた矢先のことだったから少し寂しいけれど、一歩でも自分の夢に近づけるなら足踏みしてる場合じゃない。遠い遠い場所だから、少しずつでも進まなきゃ。

雪城さんからいただいた大きなリュックに様々な荷物を詰めていく。時々、ナルトくんが私の欲しいものを察してここまで持ってきてくれるのが嬉しかった。時間短縮になるというのもあるし、単純に、私の思考回路をわかっているというのが分かって、家族なんだなって思えるのがこそばゆい。

「なんか、ニヤニヤしてるってばよ」
「んー?ふふふ。秘密」
「ぶー……、なんかしらねぇけど、まぁ、ながれが嬉しいならそれでいっか」
「嬉しいこと言ってくれるねぇ」
「なんか…ババくさいってばよ」
「………思った」

真顔で呟きあって顔を付き合わせる。それがなんだか面白くて、どちらからともなく笑い声が上がった。

「あははは!!」
「あっはははは!!」

二人ぼっちの家の中で、お腹抱えて笑いあって、しばらくするとお腹空いたねってまた笑って、私は荷造りを早々に切り上げると、彼と手を繋いで家を出た。

二人で一楽に行って、くだらない話をしてラーメンを食べて、その帰り道。鼻歌を歌う彼の背中に静かに涙がにじむ。

明日、私は火の国を発つ。
この六年間ずっと、私の家族は彼だけで、二人で過ごさない夜はなかった。
それが、明日終わるんだ。
何気ない日常が、終わるんだ。

余りにも現実感がなさすぎて、私は咄嗟に前を行く彼の服の裾を掴む。「どうしたんだってばよ?」と振り向くナルトくんに、ううんと首を振ってみせて、なんでもないよと笑ってみたけど、ねえ、私今本当に笑えているかな?

夢を叶えたいのは本当。
だけれど、彼とともにいたいのも、全部全部本当なんだ。


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