055

「そこ座って」

久しぶりのカカシ先生の部屋の中、先生に指差された場所、座椅子のあるそこに腰を下ろす。先生は一度台所に向かうと、渡した容器を冷蔵庫にしまい、戻って来てから向かいのソファに座られる。そして手を組むと肘を膝に置いて、その組んだ手に顎を乗せた。

「どうしたんですか…?」
「ながれに班の任務とは違う特別任務がある」
「え…?」
「暗部から回してもらった任務だ。お前自体の負担は少ないし、難易度もそんなに高くない。お前さえ良ければ、受けてみない?」
「暗部…特別、任務?」

予想だにしていなかった言葉に、理解が追いつかない。呆然とする私に、先生は眉根を下げて微笑んだ。

「無理にとは言わないよ。こういう言い方は良くないけど、暗部にはもっと適任の子がいるしね」
「じゃあ…どうして私に…?」
「元・暗部として言わせてもらうなら、この任務にながれを推薦する理由があるから。…お前の担当として言うなら……お前の夢を手伝いたくなったから、かな」
「!!」

先生のその言葉に、顔が熱を持つ。単純にそれは喜びからの興奮で、自分でも手に負えないほど気分は高揚していた。

「う、嬉しいです!受けます!受けさせてください!!」

ばくばくと心臓がうるさい。目の前にいる先生が菩薩のように見えた。
まともに任務の話も聞いてないまま了承した私に、先生は「早い早い」と呆れ気味に笑って、こほんと咳払いを一つ。そして表情を引き締めると、紙を一枚手渡して来た。

「今回の任務は最近情勢が不安定な風の国、砂隠れの里への潜入調査だ。そこに記されている暗部の男と旅商人の親子のふりをして砂隠れの情勢を探って欲しい」
「砂隠れの里…」

砂隠れはおろか、火の国の外に出たことがない私には他国は未知の領域だ。安全は保証できないだろうし、遊び半分で行くような場所じゃない。それはわかっているのだが、不思議と私にあるのはワクワクとした感情だけだった。

「やる気だね」
「す、すいませんっ…!任務だってわかってるのに、こんなに緩んだ顔して…っ」
「いや、そこまで喜んでくれるなら掛け合ってよかった」
「わざわざ…掛け合ってくださったんですか…?」
「…………まぁ、さっきも言った通り、正当な理由もあったからね」
「正当な理由…?」

そう言えば、それは一体なんなのだろうと首をかしげると、手にしていた紙を指差される。
そこに目をやると、一人の男性の写真があることに気づいた。年齢は先生より少し上ぐらいだろうか。三十代ほどのがっしりとした印象を受ける短髪の男だ。どこかで見覚えがあるような気がする。どこでだったっけ…?

「その人が今回お前と行動を共にする暗部の男だ。名前は「雪城 コハク」」
「雪城さん…」
「まぁ……この人とお前は親子のふりをするんだけどね?………似てるんだよ」
「え…?」

もったいぶったような言い方をするカカシ先生に首を傾げてみせると、その長い指で指されてしまった。


「似てるんだ、お前と」
「はい…?」
「顔がね」




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