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「先生、今日は肉じゃがです」

「先生、今日はビーフシチューです」

「先生、今日は鰆の西京焼きです」



「先生、今日はコロッケですよ」
「懲りないねぇ…」

あの撫でられた感覚が忘れられなくて、あの日から度々ご飯を作っては先生の家に差し入れに行くようになった。特に任務があった日などはその場で約束してその晩に持って行くことが多々ある。
先生は私の手からおかずを受け取ると頭をガシガシと撫でてくださる。やっぱり撫でられるのは好きだ。

「いつもいつも、大変じゃないの?」
「料理は好きですし、そもそも二人分作ってるんですから、今更三人分になったところで手間は変わりませんよ」
「でも材料費はかかるでしょ?」
「いいえ、それは払っていただいてるので大丈夫です」

撫でられた頭に手を添えながら言えば、先生は苦笑して頬をかく。いつも余裕そうな彼のこういう表情を見るのが意外と好きだったりする。シカマルくんの頭の良さを知った時もそうだったけれど、私は「私だけ」という特別に弱いのかもしれない。

「先生は迷惑ですか?」
「いや、正直自分で作るより美味しいし、時々時間がなくて作れない時があるから助かってるよ。ああ、前漬け込みに来てくれた漬物も美味しくいただいてる」
「ああ、漬物!あとどれぐらい残ってます?」
「三分の一ぐらいかなぁ?さっきも言ったけど美味しいから、気づけばもう容器の底が見えてるんだよね」
「じゃあ、また漬けに来ますね」
「………お願いします」

先生の顔を見れば本心から言ってくれているのが痛いほど伝わってきて自然と口角が上がる。もっと褒めて欲しい、褒めてもらうために頑張ろう、と思うのはガキっぽいだろうか。

そう言えば初めて先生にご飯を作ったあの日も、結局後で食べるよとか言われて実際に食べてるところは見ていない。そのマスクの下はどうなっているのだろうか、気にならないと言ったら嘘になる…。
と言っても今日は家にナルトくんを置いて来ているし、日を改めて一緒に食べましょうと誘ってみようかな。どんな素顔なのか気になるし…。目元だけだとかっこいい感じなんだけどなあ。

「じゃあ、私帰りますね」
「いや、ちょっと待って欲しい」
「え…?」

そんなことを考えながら、いつも通り前回渡したおかずの容器を回収して、ナルトくんが待っている我が家に帰ろうとしていると、初めて先生に呼び止められた。何事だろうと振り向けばちょいちょいと手招きされて、そちらに歩み寄る。


「先生…?」

敷居を跨ぎ、玄関に足を踏み入れると同時にばたりと扉を閉められた。


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