053

「よっ、起きた?」
「………」

どれぐらい寝ていたのだろう。休息によって十分チャクラも回復したし、頭痛もすっかり良くなった。ぱっと目を開けると、額当てを外し随分オフモードのカカシ先生が相変わらず本を読んでいる。読んでいるの本の題名は「イチャイチャパラダイス」…。詮索はやめよう。きっといいことはない。
そういえば額当てで隠していた方の左目にはまぶたから頬にかけて痛々しい切り傷が見える。それは常に閉じられたままで、もしかして任務の中で失ったのかもしれないと少しぞくりとした。

「すいません…どれくらい寝てました…?」
「四時間ぐらいかな」
「じゃあもう夕食前の時間帯ですかね…?」
「ん?ああ、そうだね。それぐらいだ」

もそもそと体を起こし、眠い目を擦ってベッドを這い出る。先生に「帰る?」と問われて静かに首を振った。

「え?」
「お礼をさせてください」
「ど、どう言うこと?」

手にしていた本を置いて聞いてくる彼に、逆に質問を投げかける。

「台所はどこにありますか?」
「なるほどそう言うこと。気にしないでって言っても、気にするんだろうね」
「よくご存知で…」

先生はニコリと笑って「こっち」と私を台所まで案内してくださる。あらかじめ断りを入れてから冷蔵庫を開き、何が作れるかを考える。

「先生、嫌いなものってありますか?」
「……」
「教えるつもりはないって、言うつもりですか?」
「………はぁ…。天ぷらと甘いもの、です…」
「はい、ありがとうございます」

なんだかんだ素直に答えてくださった先生に感謝を告げて、作るおかずに算段をつけた。「部屋で少し待っててください」私は腕まくりをしながら食材を手に取る。

「本当にいいの?」
「今更じゃないですか」
「ナルトと一緒に住んでるんだろう?」
「ナルトくんは放っておいても勝手に食べますよ」
「意外と冷めてるのね」
「家族ってそう言うものじゃないですか?」

先生にそう笑顔を投げかけると、曖昧に微笑まれて釈然としない。しかしすぐに、きっとそれにも意味があるのだろうと割り切ることにした。

「ほら先生、本でも読んでてくださいよ」
「悪いね。ならそうするかな」

私の頭をガシガシと撫でて先生は台所から出て行く。私は思わず撫でられたそこに手を添える。

「……」

じんわりと、撫でられた頭から熱が下りてきた。
頭を撫でられたのなんていつぶりだろうか。ナルトくんもサスケくんも私の頭を撫でないし、撫でるとしてもシカマルくんぐらいな気がする。今のは彼ともシスイさんとも違う感覚だった。

「ダメダメ…」

小さい声で自らを諌めながら首を振る。今はそんなことでぼーっとしてる場合じゃないんだ。自己紹介の時、あんなに料理が好きって言ってしまったんだから不味いものは作れない。それにお礼なのだから美味しいものを食べてもらいたい。

とりあえずお米を炊くことから始めようと、私は気合いを入れ直した。


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